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生産と消費をかきまぜる農家—体験型ワインオーナー制ぶどう園「OKUNARY(オクナリー)」(執筆:高橋博之)

大阪府のはずれにある柏原市の山間部で葡萄の生産販売をしている奥野成樹さん(36)を訪ねた。
大阪の中心部、梅田から電車で1時間あまり。夕方になると無人駅になる小さな駅を出ると、奥野さんが軽トラで出迎えてくれた。早速、農園に向かった。車一台やっと通れるかどうかの細い道を駆け上っていく。傾斜地に住居や農園がへばりつくようにしてあるので、あちこちに石垣が見える。「お客さんから大阪のマチュピチュって言われたこともあります(笑)」と、奥野さん。

この地域特産のデラウェアをはじめ、シャインマスカット、巨峰、ピオーネなどの大粒品種を、父と一緒に多品種生産している。農業にはまるで興味が持てず、親からもやれと一言もいわれたことはなく、高校卒業と同時に田舎を出て、京都の大学に進学。卒業後は会社員として福島県いわき市で働いていたが、そこで出会った若手農家の畑には常に消費者が手伝いにやってきて、笑いが絶えず、賑やかだった。
農家って、こんなカッコいい仕事だったのか、、、」。農業の持つ暗いイメージが一新され、今から8年前、脱サラ親元就農した。

農園は1.7ヘクタール。ここで生食の葡萄を生産しているのだが、就農2年目の2017年冬から体験型ワインオーナー制ぶどう園「OKUNARY(オクナリー)」をスタート。

耕作放棄地を開拓し、130本の苗木を植えるところから農業素人のオーナーたちと始めた。いわき市の農家の賑やかな畑の残像が脳裏から離れず、葡萄で同じことをするにはこのスタイルがよいとひらめいたのだった。農家として一人前になってから実現しようと考えていたが、大阪府とJAグループ大阪が、若手農業者の経営強化プランコンテストとして開催している「おおさかNo-1グランプリ」にたまたま出場し、オーナー制の夢を語ったところ、うっかり優勝してしまい引っ込みがつかなくなってしまった。

「おおさかNo-1グランプリ」で見事優勝

年会費は2万800円。現在、オーナーは大阪市を中心に近隣市町村からも、引退世代や飲食店経営者を中心に104名まで増えた。オーナーは自分の葡萄の木に木製のネームプレートを設置している。4~7月は自主農作業ワーク。オーナーの好きなタイミングで畑に来て、奥野さんが自ら撮影した作業をユーチューブ動画で見ながら汗を流す。7月後半はビニールかけワーク、9月中旬は収穫祭、葡萄選果ワーク、11~12月は防草シート張替えワーク、1~2月は剪定ワーク、3月は病気対策ワークと、年間通じて様々な作業がある。

頻繁に通ってくるオーナーは自分の木だけでなく、なかなか作業に来ることができない他のオーナーの木も手入れする。奥野さんは草刈りなどの一部の作業だけやるものの、「オーナーたちのこの畑が農園の中で一番管理が行き届いている」と頭をかく。

オーナーが育てた葡萄は、地元ワイナリーで醸造されオリジナルワインに

昨年の収穫祭には70人のオーナーが集まり、300㎏分の葡萄の収穫を20分で終えてしまった。地元のワイナリーに委託醸造してもらい、世界にひとつだけのオリジナルワインができあがる。昨年は210本のオリジナルワインを醸造。今年は300本を超える見込みだ。
オーナーの8割以上が毎年継続している。オーナーの中には、その年の天候と葡萄の出来栄えの関係を解説できるようになった玄人もいるという。「直売所でお客さんと触れ合うのも楽しいが、生産の苦労を共に味わったオーナーたちと分かち合うワインは格別です」と、奥野さんは目を細める。

農園では生食用葡萄の栽培も

オーナーたちの一部は自分たちの葡萄の木の手入れだけでは満足できず、奥野さんの主戦場である1.7ヘクタールに及ぶ生食用の葡萄農園の手伝いにボランティアでやってくる。現在8組くらいのオーナーたちが定期的に手伝いに通ってくる。コロナ禍の前は30組近くがボランティアで作業を手伝ってくれていた。
もはや、奥野さん家族の葡萄生産には欠かせない重要な戦力となっている。奥野さんは「もっとオーナー様を増やし、担い手不足解消の新しいモデルをつくりたい」と意気込む。オーナーの枠の上限は130。残り26の枠が空いている。当初は、部外者を農園に入れるとは何事か!と激怒していた父も、今では農園を訪れるオーナーと顔見知りになり、交流を楽しむようになった。


関連リンク

◆生産者ページ
奥野成樹 | かねおく農園 

◆Facebook
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