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タートルの季節がまた来る

仕事の日のファッションは、手抜き系オフィスカジュアルだ。

夏ならツヤのあるTシャツに七分袖カーディガン、スカート、冬はセーターにパンツかキルトを合わせる。

今年も重ね着をする季節がまたやってきた。

季節の変わり目に重宝するのが、ベストだ。

ジャケットの下に着れば寒くないし、重ね着をして袖がもごもごすることがない。

数年前に通販でちょっと良さげなベスト(ねずみ色)を見つけ、買った。
届いたのは、思ったより首周りが大きいオフタートルだった。
硬めのニットなので、タートルが垂れることなくしっかりしている。

ちょっと合わせにくくて、あまり出番がないのだが、寒い日には都合がいい。

ある日、濃いグレーのシャツに、その薄いグレーのタートルベストで出かけた日のことだった。

教授の部屋で打合せをし、戻ろうとする私に教授が
「ミタライさん、今日は亀っぽいですね」と言った。

一瞬、何のことを言われたのかわからず、数秒沈黙が流れた。

教授の断片的な言葉の表現から、そっか!と気づいた。
確かにこの首周りは、それに色も、亀だ。
なんならタートルの中に首を引っ込めることもできる。

だからタートルって言うんだよなと、改めて気づいた。

多分私は、ムッとするわけでもなくポカーンとしていたのだろう。

いつも小4男子みたいなところのある教授なので、腹立たしく思うことなく終わった。

そんな教授は不思議なオーラに包まれているように見えるらしく、よその研究室の人から、どんな人なの?と聞かれたり、話してみたい、ファンミーティングしたいなどと言われた。

いつでもいいよ〜なんて言ううち、教授は退官された。

一番のファンだったM子に、タートル事件のことを話したことがある。
もちろんそのオフタートルのベストで出勤した日に。

そして、二人で息ができないほど笑った。

研究室で都合よく使われてしまう秘書の立場を、一番気にかけてくださっていたのは、その教授だった。

退官後は海外の大学に招聘された。

お元気かな。また会えたらいいな。

あのタートルのベスト、今年も着る機会はあるかな。

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御手洗 育/暮らしのエッセイスト
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