越路吹雪さんを聞きながら
ひとりの夕ご飯は、たまにテレビがおともだち。
7時のニュースを見たNHKが、ついたままになっている。
ゴーヤチャンプルの二口目を食べようとした時、玄関のドアがカチャと音を立て、夫が帰宅した。
夫の分をテーブルに並べると、また続きを食べる。
短い会話をかわすと、夫は晩酌を始めた。
テレビは「クロ現」から「うたコン」に変わっている。
今夜の「うたコン」は越路吹雪さんの特集らしい。
今年は生誕100歳なのだという。
いろいろな歌手が、越路吹雪さんの曲を歌う。
どの曲も知っているけれど、越路吹雪さんが歌う姿をテレビで見た記憶はほとんどない。
56歳で亡くなられた時、私はまだ高校生だ。
古い映像の越路吹雪さんを見ながら、改めて魅力的な人だったことがわかる。
もう少し生まれた時代が違っていたら、コーちゃんを見られたのに…。
日生劇場のリサイタル、観てみたかった。
少し前になるが、市毛良枝さんの朗読会に行った。
越路吹雪さんのマネージャーを長年務めた岩谷時子さんが書かれたものを、ピアノとチェロの演奏をバッグに読まれる舞台だった。
越路吹雪さんも岩谷時子さんも、演じる市毛良枝さんも、とても魅力的だった。
そんなことを思い出していたら「うたコン」には菅原洋一さんが登場。
テレビの前に移動した夫の後ろで、私も画面を見つめる。
御年90歳、足下は、歌は、大丈夫なのかしら。
私たちだけでなく、司会者や出演者の緊張が伝わってくる。
タキシード姿の菅原洋一さんは、「今日でお別れ」を、静かにとても素晴らしく歌い上げられた。
私たちだけでなくテレビの中の人たちも、目に光るものがあった。
なんだかよくわからないけど、歌って人をこんなに感動させちゃうものなんだ。
時代は変わっても、いいものはいいのだろう。
若いころ、親が見ている演歌や民謡の番組を、ジジくさっと思っていたけれど、年齢と共に味わい深くなるものがあるんだとわかる。
若きミュージカルスターにときめいたかと思えば、90歳の御大にグッとくる。
そんな楽しみをくれる「うたコン」、結構好きなのだ。
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