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禍話リライト「ビルのスキマのヒロミさん」

◆この話は、二次利用フリーな怪談ツイキャスの「禍話」を書き起こしたものです。

震!禍話 第十夜 佐藤君スペシャル②
アドレス https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/453505759

(02:10ごろから)


ある地方都市の大学のサークルで起きた話だ。

サークルといっても熱心な活動をしているわけではなく、だらだらと雑談などを垂れ流している溜まり場のような場所であったらしい。
少人数サークルというほどでもないが、積極的な勧誘はしていないのでさほどメンバーが増えることもない、そんなところだ。
その日もいつものようにだらだらとくっちゃべっていると怖い話の話題になった。
最初のうちは都市伝説やネットで有名な怪談などの話をして盛り上がっていた。
楽しく話し合っているうちに新入部員の一人(仮にAとする)が何やら不満そうな顔をしていることに気づいた誰かがこういう話は嫌いなのかと話を振ったところ、
Aは怪談なんてくだらないものではしゃいでいるのが馬鹿らしいのだと言う。
男性にしては珍しくファッションに気を使っている、といったタイプの二枚目気取りのAには自分が話題の中心に居れないことがつまらなかったのだろう。
更には自分なら今すぐにでもさっきまでの話より何倍も怖い話を作れるとまでいいのけた。
あまりに自信満々な態度をとるため若いうちは生意気な方がいいもんだなんて思った先輩が作らせてみるとこれが中々に怖い話を作った。
少なくともさっきまで盛り上がっていた話よりは怖いものを。
元々はネットで拾ったものを多少脚色したという。
その程度のもので怖がる先輩たちを嘲笑うかのようにAはこう言った。
だから怪談なんてこんなものだ、くだらないと。
思ったよりも良かったものを作ったことには驚いたが調子づいたAの態度を見ると凹ませてやりたくなるものが人情というものだ。
それにAは体験主義というにはあまりに若すぎるがこの世に不思議なことなんてないと思っているようである。
ここはひとつ本当に怖い話というものを教えてやろうと先輩たちの中でも四年生の一人がこう切り出した。
「じゃあさ、ビルのスキマのヒロミさん、って話知っているか?」
その話題になった瞬間に、新入生を除いた先輩たちは突然雰囲気が変わったようだった。
「あの話するの!?」「あれって文章にするのがダメで口頭はいいんだっけ?」「やめとこうよ…」
Aは騒然とする先輩たちを小馬鹿にしたように鼻で笑って見せた。
「へ~、どんな話なんですか?」
半数ほどの先輩たちはそんなAの恐れ知らずな態度を見てもまだ怯えたようにさり気なく止めようと声をかけたが、話を切り出した一人はそんなAの態度で覚悟を決めたらしく話をつづけた。
「あのな?この大学の隣にビル、建ってるだろ?ほら、今学生マンションになってるあそこだよ。あの周りってビル群になってるよな。そこの○○ビルと××ビルって知ってるか?あそこのスキマで起きた話なんだよ……。」
「あそこの屋上って今は立ち入り禁止になってるんだけどその事件が起きる前は普通に入れてさ、まぁ不用心ではあるけど誰もあんなことが起きるなんて思わないものな、仕方ないよな。」
「ホームレス……っていうか結局どこの誰かはわからなかったんだけど屋上に侵入して飛び降り自殺しようとした奴がいたんだよ。」
「見ればわかるんだけど、あそこのビルのスキマって狭いんだよな。だから飛び降りって言っても直立した感じで落ちちゃってその間に色んなとこが削れちゃったみたいなんだよね。顔とかさ。」
「丁度夏休みの皆帰省とか行っちゃっていなくなってた時期の話でさ、発見されるまで時間かかったのと季節が季節だから腐っちゃったらしいんだよ。」
「身元が分からないっていうのはそういうことでね?まあ唯一って言っていい本人かどうかわかりそうなものっていうのが服に書かれてた名前でさ。」
「ぶっとい油性マジックペンってあるだろ?あんな感じのもので書かれてたらしいんだけど。」
「ちょっとおかしい人だったんだろうな、汚い感じでヒロミって書かれてたんだって。」
「その後からなんだけど顔が向いてた方のビルに住んでた人が窓の外を音を立てて何かがよぎる、なんてことを言いはじめたんだ。」
「本当かどうかはわからないけどそこの人皆引っ越しちゃってさ、ビルの持ち主とか管理人とか諸々変わっちゃったんだ。」
「それでさ、この話の一番ヤバいところってのがさ、」
先輩の異様な雰囲気に呑まれていたように大人しかったAがやり返すようにその話を遮った。
「でもヒロミってことは、男か女かわかんない名前ってことですか?」
唯々諾々と話を聞くだけだったAを見て満足そうにしていた語り手の表情が突如青ざめた。
「お前……それだけはダメなんだ……この話そこ突っ込んじゃダメなんだよ……!」
止めようとしていた先輩たちが怯えたように黙り込んだ。
あれだけニヤニヤ顔で眺めていた先輩たちも凍り付いたようだった。
語り手だけは口から泡を飛ばして叫んでいる。
「この話は性別の話だけはしちゃダメなんだよ!絶対しちゃダメなんだよ!な?な!?」
先輩が半狂乱のように話す様が愉快だったのかAはしてやったりといった顔をして続けた。
「聞いたら何か起こるんですか?窓の外にでもヒロミさんが出て恨み言でも言うんですか?」
しょうもないと言いたげなAに四年生は分かってないというように大きくかぶりを振りながら言った。
「そういうんじゃない、そんなもんじゃないんだよ、実話とか実体験とかはな、こっちの想像を超えて来るもんでな、」


「ふぅ~ん?」


窓の外から声がした。
男性とも女性ともとれるような凄く中性的な声だったという。
その瞬間大声をあげて皆部室を飛び出した。
部室は三階だった。

三、四年生はお祓いに行ったり、怖いからと他の部員は来なくなったり、何が起きたかが他のサークルにも広まったのか付近のサークルでも来なくなる部員が続出したという。
そんなことがあってからヒロミさんの話をしたことについてクレームが来たためサークル会館に行きづらくなり、部員の一人の部屋に集まって活動を続けることになったそうだ。
久しぶりに集まった彼らの話題の中心はあれ以来見なくなったAのことだった。
怖すぎて田舎に帰ったんじゃないか、などと皆が軽口を叩く中怯えたように「Aのことを見た」と申し出た部員がいた。
「この間あの話に出てくるスキマの前に突っ立ってましたよあいつ……」
「ぎょっとして何してるんだろうと声かけずに見てたらあいつそのままスキマに入って行っちゃって……怖くなったので逃げてきちゃったんですけど……ヤバいですよね……多分」
ちょっとまずいよそれは……などと話していると誰かの携帯が鳴った。
確認してみるとAからだという。
サークル会館にいないが皆どこにいるのか?と言った内容のものだったらしく、ここにいるという事を教えてもいいだろうかという。
一時の気持ちであんな話をさせることを止めなかったという罪悪感か、心配だったということもあってか彼を呼ぶことになった。
そのまま彼が来るのを待っているとドスンドスンと大きく足音を鳴らして歩いてくる音がする。
その足音は部屋の前で止まるとチャイムを連打し始めた。
Aのようだ。
何かおかしいものを感じながらもドアを開けてみると変わり果てた彼の姿がそこにあった。
髭はぼうぼうに伸び、風呂に入っていなかったのか髪の毛はパリパリで酷く匂う。
いやに落ち着きがなく興奮した様子で辺りをキョロキョロと見渡している。
そしてはっきりとそうだとは言えないのだがあの逃げた直後と同じ服を着ているように見えた。
入ってくるなり彼は分かりました!と連呼している。
皆が唖然としている中、一人が事情を聞こうと声をかけた。
すると助かるために調べていたという。
何の話かさっぱりわからないといった様子で聞いてきた相手に癇癪を起した彼は続けた。
ヒロミさんの性別がわかったのだという。
もうヒロミさんの話になんて関わりたくなかった彼らは止めようとしたが暴れ続けるAの様子に恐ろしくなり宥め聞くことにした。
ヒロミさんの性別はこどもだという。
"おとこ"でも"おんな"でもなく"こども"なんだという。
まるで狂ったかのように叫び続けているAにどうしてそう思ったのか聞いてみると、ヒロミさんと同じようにスキマに挟まってようやくわかったのだという。
あまりに理解できない話を続けるため、頭にきた一人が声を荒げて問い詰めようとした瞬間だった。


「へぇ~、こどもなんだ。」


ベランダからあの時と全く同じ声で聞こえたそうだ。
気が付くとAは消え、各々仰向けになっていたり、うつ伏せになっていたり、一人は土下座までしていたらしい。
その後Aは誰にも見られることはなく一ヶ月後に大学を退学したそうである。
このサークルは現在は潰され、別のサークルとして作り直されているそうだ。
ヒロミさんの話は今もその大学で性別にだけは触れないようにしながら語り継がれているという。

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