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禍話リライト「燃えた部屋」

◆この話は、二次利用フリーな怪談ツイキャスの「禍話」を書き起こしたものです。

真・禍話/激闘編 第10夜https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/400246373

(1:47:00頃から)



とある集合住宅の話である。


県や市が建てた六階、七階くらいまであるような立派な所だったそうだ。
そこの高層階に(仮にだが六階としておく)夫婦が住んでいたという。
夫婦には高校生くらいの娘がいたが、奥さんの方が神経質な性格だったようで子供の育て方に関して多少うるさいタイプだったらしい。
ある日、夫側が我慢の限界が来たのか、正式に離婚をしたうえで、娘を連れて出て行ってしまった。
すっかり一人になった彼女は強がりだったのか全く問題ありませんよ、と言わんばかりに気丈にふるまっていたそうだ。
しばらくはそんな感じで見かけは平気そうだった。
そのうちに近所の住民の間で彼女が何やら高層階だというのに鳩避けのようなバリケードのようなものをベランダに作っている、と話題になった。
やっぱりショックだったのかしらねぇ……などと井戸端会議をしていたおばちゃんたちの中の好奇心旺盛な一人が彼女にあれは何用に作っているのか?と尋ねてみたそうだ。
彼女が言うには悪いものが出ていかないように塞いでいる、とのことだった。

どうやら彼女は新興宗教のようなものにハマってしまったようで段々と奇天烈な行動が目立つようになってきたという。
マンション中にお札を張ったりだとか、その宗教の信者を集めて祈祷などを行ったりだとか。
遂には他の住人達に布教のようなことをし出してもう無理だ、となった彼らが管理人に相談したようで出ていかされることになったそうだ。
案外にも彼女は聞き分けがよかったらしく、素直に出ていくと答えたそうだ。
そして引っ越しの日、彼女の部屋が火事になったという。
原因は不明だがその部屋が火元であることは間違いないらしく、住民の中では燃え盛る部屋の中で彼女が何かしら叫んでいた、という人もいた。
聞き取れた部分だけではあるが、ずっと同じ文言を繰り返していたようだという。
祓いたまえ、清めたまえと。

そんな場所があるということで肝試しに行こうという計画を立てた青年たちがいた。
4~5人ほどの男しかいないようなむさい集団で、ひと夏の思い出?みたいな?などというような感じだったそうだ。
正しくはそのうちの一人が提案したようで下見までしてきていたという。
そんな彼の熱意に押されてというのが真相だったようだ。
彼が言うにはかなりわかりやすくペンキが塗りなおされているらしくどこの部屋がそうなのか一目瞭然らしい。
そこのマンションにはエレベーターがないらしく、もし、何かが起こったら階段を使うしかないという部分に非難轟轟ではあったものの、結局言いくるめられてしまったという。
実際に行ってみると夜だというのにどこの部屋が塗りなおされたのかはっきりと分かったそうだ。
うわーマジなんだー、こえーなどと言いながらマンションの階段につくとすぐ脇に集合ポストがあった。
問題の部屋の番号は外から数えてみればわかるからと見てみると取り出し口が塞がれているのにパンパンで今にも入れ口から逆流しそうなほどだったという。
それだけ入っていると変に奥まで覗かなくてもどんなものが入ってるのかわかるもので上から少し見てみた。お守りだった。
交通安全であるだとか安産祈願だとかとにかくいろいろな種類のソレがぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
嫌なものを見たとテンションがだだ下がりだった彼らの気分を知ってか知らずか提案者(仮にAとする)が軽い調子でこう付け加えたという。
「その部屋さ、とにかくおかしいことばかり起きるから、皆お祓いを頼むような余裕はないから家中のそういう、お札だとかお守りだとかをぶち込んでるらしいんだよね~本当だったんだな」
川口探検隊のような気分にでもなっているのか更にやる気になった彼を止めることは出来なかったようで部屋の前までなら…と行くことになった。
他の住人もいるだろうに掃除なんてもう何年もされていないかのように、蜘蛛の巣だとか蛾などが階段にへばりついていた。
一階、二階と昇っていく途中でそこの住人らしき男に声をかけられた。
ジャージを着た年齢背丈は自分たちと同じような長髪の男だったという。
不法侵入であると通報されるのかと身構えていた彼らだったが、彼は携帯を取り出す素振りも見せずに煙草を吸いながら話しかけてきたそうだ。
「君たち、アレ?肝試し?よく来るんだよね~ここ。」
「あ、そうです。すいません。すぐ出ていくんで…。」
「あーいやいや、通報しようと思って声かけたわけじゃないんだ。泥棒なんて来たところで盗るものもないようなところだしね。だからホラ、管理人さんとか監視カメラとかもないでしょ?」
「はぁ…すいません。あのぉ、よく肝試しにしに来る奴らがいるってことは本当なんですか?」
「うん。そうそう、例の事件が起こったのは二、三年前の事なんだけどね、なんか、焦げ臭い匂いがしてきたらヤバいらしいよ?まぁ僕は気分転換の煙草も吸えたしそろそろ戻るけど。頑張ってね。」
磨かれていないのか、くすんだ光に照らされながら廊下を戻っていく彼を見送った。
警察のお世話になるようなことは無さそうなことにホッとした彼らは、その勢いのまま六階へと昇って行った。
埃なのか泥なのか何かの生物の死骸なのかもわからないほど黒ずんだモノが今にも切れてしまいそうなほど点滅を繰り返している蛍光灯に照らされていた。
さっきの男がいた階とは比べ物にならない廃墟のような異様な空間に尻込みしかけた彼らだったが、Aは逆に目を輝かせながら部屋に向かっていったという。
部屋の前まで行かずに帰りたかった他の仲間も置いていくことは出来なかったようで三歩ほど歩幅を保ってついていくことにした。
「おい、もういいだろ、この階まで来たんだしさ、もう充分じゃん、帰ろうぜ……」
「大丈夫だって、俺さ、感動しちゃったよ。こんな映画みたいなところがあるなんてさ。写真でも撮ろうかな。いやマジでスゲーってこれ。なかなかないよこんなとこ。」
「マジでなんか映るかもしんないだろやめとけって!いいからさーもう帰ろうぜ。マジでヤバいってここ。」
「大丈夫大丈夫、ビビりすぎだって。さっきの兄ちゃんも言ってたろ?焦げ臭い匂いがしてきたら逃げればいいんだって。他の奴らもよく来るって言ってたしさ。帰れてるんだろ?そいつら。」
「そうだけどさー……」
そんなことを言っているうちに部屋の前についてしまった。
お菓子や花束が部屋の入り口を覆い隠そうとするかのように辺り一面に飾ってあったそうだ。
A君の体に隠れてよくは見えなかったがその向こうにお供えなのか、何か花束以外の物がチラチラと蛍光灯を反射するかのように光っていた。
A君はそんな状況にも怯まずにその部屋のインターホンを押したという。
もう誰も使っていないのだろう、インターホンは何の反応も返さずにスカッというような空気が微かに動くような音がしただけだった。
そりゃまあそうだよな、というようにA君は頭を振って大げさにリアクションを返し、飽きたのかこっちに向かって歩き出そうとした時だった。
インターホンから何かを唱えているような声がしてきたという。
とても低く男の声のように聞こえるそれは何度も何度も同じリズムを繰り返しているかのようで聞き取ろうとしたA君がインターホンに身を寄せた瞬間仲間の誰かが叫んだ。
A君の影に隠れて見えなかったそれは若い男の写真だった。
遺影というには小さい、写真立てのようなそれにはアキフミ君と書いてあったそうだ。
その写真の人物はさっき下の階で自分たちに忠告をしてくれた男だった。
服装こそちゃんとした礼服のような制服のようなものだったが、絶対にその男の写真だったという。
その事に気づき固まっている彼らにも聞こえるような大声で、ドアの向こうから誰かがからかうように声をかけてきた。
「ねぇ?そろそろ焦げ臭くなってきたんじゃない?」
その瞬間、彼らの中の限界点を超えてしまったのか階段を踏み外さないよう、出来るだけ急ぎ足で無言で階段を駆け下りた。
それからは二度と近づいていないという。

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