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【映画の感想】印象のどんでん返し。おおかみこどもの雨と雪

細田守作品を見ようキャンペーン実施中。サマーウォーズは大人気の名作らしいが、見ててこっぱずかしくなるのであまり好きでなかった。未来のミライは、あまり評判は良くないようだがエヴァンゲリオンの世界観に浸っていたのが功を奏し、楽しめた。くんちゃんの気持ちに寄り添うと結構面白い。長男長女は特に感情移入しやすいと思う。

で、今日見直したのは『おおかみこどもの雨と雪』。多分一度は見たことがあったけど、大学生を経験したうえで見てみたかったのと、富山県にご縁ができたので改めて見てみたかった、というのがセレクトの理由。

個人的な評価は、上がって下がって急上昇してエンド。とっても高得点。

前半はひたすら「解せぬ」

色々と解せなくて、前半は全く感情移入できないというのが素直な感想。

花ちゃんが素敵なおおかみおとこに出会ったのは良いとして、確かにおおかみおとこカッコよかったけど、大学在学中の妊娠はなかなかアグレッシブだし、しかも休学して二人目までできちゃうのはさすがにどうなんだろうか。

おおかみおとこも人間の大人として生きていたのだから、ただでさえ裕福でない花ちゃんに休学させてしまう負担とか考えなかったのかしら。休学だってお金かかるんだから。それともおおかみおとこはよほど先が短く急いでいたのだろうか。だとすればその描写はあったのか?見逃したのかな?

そもそもおおかみおとこが貯金で細々やっていけるだけのお金をためてるんだったら大学の授業を無断で聴講せずともお金出せたんじゃないだろうか、とか。というか図書館はこっそり入らなくても普通一般開放してる気がするのにな、とか。そしてなにより、東大でもない限り東京の郊外にある「国立大」があんな洒落たキャンパスなわけがない(知らんけど笑)。

そして、おおかみおとこが死んでしまってしまってからの子育ても、「ありえないでしょ」という気持ちが先行して色々とヒヤヒヤする。ペット不可物件であんだけ家汚しちゃったらどうなるんだろう。子供の検診受けさせてなくて役所の人追い返しちゃうのはさすがにやばいんじゃないだろうか。

なんだかんだで富山に越していくのも、子どもの検診も受けさせてなくて役所から目を付けられてる状況なのに住民票移動とかすんなりできたのかなとか思ってしまうし。そこまでひた隠しにしてたのに物件探すときは役所の人に普通に案内してもらっちゃうんだ、とか思ってしまうし。

兎にも角にも、前半はまるっと「解せぬ」で終わった。まあ、そもそもフィクションだけど。


雪の生き方、雨の生き方、花の生き方

解せぬのオンパレードだった前半戦。しかし、それぞれの考え方や心の動きから「生き方」が見えるようになってくると気持ちも一転。一気に惹きつけられた。

まずは、第一子の長女、雪ちゃん。雪ちゃんは好奇心旺盛でなんにでも興味を持つ。だからこそ、人間にも興味を持った。それは「野性」からくるものだったはずなのに、人間の社会に入ったことで「理性」に打ち消されていく。「他の子と一緒じゃなきゃやだ!」というのが、ただの子どもの狂暴なわがままではなく、周囲への順応に変わっていく。それはまさに人間としての精神的な成長だった。なるほど。

続いて、第二子の長男、雨ちゃん。泣いてばかりの弱虫で、ちっちゃくて、もう可愛くてどうしようもなかった雨ちゃんだけど、怖がりだから家族以外とのコミュニケーションは積極的にとらない。それ故に、社会性や理性(あくまで人間としての)はあまり身につかない。お母さんが狼として生きる選択肢も与えていたからこそ、人間として生きる意志は育たず、森へ行ってしまった。怖がりだから野生動物の世界の方がよっぽど怖いんじゃなかろうかと思われるけど、根本的にオスだから、本能が弱虫ではいさせなかったのだろう。なるほど、なるほど。

そして、主人公である花ちゃん。彼女、他者からの目線を気にしているような、やっぱり気にしないような、不思議な子だった。

最初は、ありがちな地味な女子学生という感じだけど、おおかみおとこに出会って可愛いワンピースを着始めるあたり、なんかリアルだ。また、花ちゃんは大学には友達がいなかったと見える。バイトでサークルなんか入っていられなかったろうし。何より、友達がいたら妊娠して休学というルートをたどるのはなかなか後ろめたさがあるはず。でも花ちゃんにはそんな体面を気にする相手はいなかったから、あの選択ができたし、ずっと幸せそうにしていたのじゃなかろうか。そんな感じで、あまり体裁を気にしない子という感じがしていた。

でも、おおかみおとこが死んでしまって一転する。ものすごく他人の目を気にするようになる。子どもたちには姿が見えないようにフードのあるポンチョ(雨合羽?)をいつも着せて、早朝の誰もいない公園で遊ばせて、必死に隠れる。いや、本人が隠れるというよりは子どもたちを隠しているけど。

そこから地方移住をして、また今度は体裁を気にしない子に戻った感じがする。最初こそ人から離れたところに住もうとしていたけれど、地元の人がちょっと怪しそうに見てくる目線も気にせずにニコニコしているし、逃げも隠れもしない姿勢によって次第に地元の人も心を開くようになっていく。結果、めちゃくちゃ地元になじんでしまうこれまでの、独りぼっちの世界でも、おおかみおとこと子どもたちだけの4人だけの世界でもないところから出てきた感じ。なんだか不思議な子だ、花ちゃんは。


前半の「解せぬ」は特大ブーメランとなり返ってきた

この映画の引っかかりポイントとして大きいのは花ちゃんの生き方。え?それ大丈夫なの?と思ってしまうような人生を送っている。

それでも、後半に差し掛かり「どの生き方を選ぶか?」という問題が鮮明に見えてくると、花ちゃんの生き方に文句を言う資格なんてないじゃないか、と思えるようになってくる。

雨ちゃんがいよいよ森で狼として生きていこうとし始めたとき、お母さんである花ちゃんは止めようとする。「人間として生きても、狼として生きてもいいように育てる」と考えていたのに、いざ雨ちゃんが出て行こうとすると「狼としては十分大人だけどまだ10歳なんだから」とつい言ってしまう。そして花ちゃんはハッとする。

映画の観客として客観的に見れば、「狼として生きる選択肢を与えたのはお母さんたる花ちゃんなんだから、雨ちゃんの選択には何も言えないよな」と思える。ここで私も、花ちゃんの一見アグレッシブな生き方に文句は言えないということに気付かされた。

花ちゃんは、例えどんなに苦労するとしても、おおかみおとこの遺志を継いで二人の子どもを立派に育てることを選んだ。これまでずーっと孤独で寂しかった花ちゃんがおおかみおとこから得た幸福は、奨学金借りてまで行った大学を中退することなど天秤にかけようのないほどのものだったのだろう。反対に、花ちゃんの選択を是と思えない生き方をするのも私の自由。ただ、生き方に正解不正解はないわけで、お互い干渉すべきところではないというのは明白だ。

まあ、フィクションですけど。

何分お母さんとなった花ちゃんの立場は想像の範疇を出ないので、まだまだこの映画を見るにあたっての視野が狭かったと感じている。自らの妙な考え固さや幸せの押し付けに気付いたのはよき収穫だ。

個々の幸せに、口出しはできない、ね。


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