例のゲームのコラボ時計について調べたまとめ

腕時計オタクという程ではないニワカですが、スケルトンウォッチが好きで一時期色々調べた事があり、今使っている時計もハミルトンのオープンハートです。

ある人気ゲーム(自分はやったことない)のコラボ製品に珍しく機械式のスケルトンウォッチが出ており、いい感じにスケルトンで魅力的だと思ったのですが、ちょっと気になる事があったので調べてみました。

※上にも書いているように自分は時計にさほど詳しい訳ではないため間違っている情報などあるかもしれません。

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ここから下は本編としばらく関係ない部分が続くので適宜読み飛ばしてください
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まず基本知識ですが、時計というものは大きくは実際に時計と動かす「ムーブメント」と文字盤などを構成する「ケース」の2つに分かれております。

機械式というのはこのムーブメントの動作が全てゼンマイや歯車を用いたアナログかつ複雑な機構で構成されたもので、これに対して電池で動く水晶振動子とモーターを使った近代的な時計はクォーツ時計と呼ばれます。

クォーツ時計は安価で時刻も正確で構造も機械式より単純なため大量生産に向いており、ほとんどの腕時計はこのクォーツとなっております。
発明したのは日本のSEIKOで、これの普及により複雑で不正確で値段の高い機械式時計は淘汰されてスイスの多くの時計メーカーが壊滅に追いやられています。

一方で、壊れたら使い捨ての側面が強いクォーツと異なり、購入から長期間経過している時計でも修理して使え、またアナログならではの愛らしさなどもありブランド品・嗜好品として現在でも一定の人気があります。

ケースは文字通りムーブメントを包むガワです。ムーブメントが内臓ならばケースは皮膚や顔にあたります。

どうしてこれら2つを別々に語る必要があるかというと、スイスの時計メーカーは分業制で、ケースを作るメーカー、ムーブメントを作るメーカー、ばねやゼンマイなどの部品を作るメーカーが別会社なのが普通で、別のメーカーの全く違う時計だけど中身は一緒というのが普通だからです。ケースとムーブメントを一貫して生産するメーカーは「マニファクチュール」と呼ばれ、その分値段も高くなります(日本の有名時計メーカーは基本的に自社設計なのでマニファクチュールです)。

ケースを作るメーカーが基本的にブランド名なので、中身のメーカーは通常表には出てきませんしケースのメーカーも通常明らかにしません。これは隠している訳ではなくスイスの時計業界自体がそういうものであり、おかしい事ではありません。

例えば僕の使っているハミルトンのジャズマスターは中身はETA社の2824-2をベースとしてパワーリザーブ(ゼンマイを巻かない状態で数日間駆動する機能)を持たせたH-10というムーブメントが使われています。

かつてはこうした既製品のムーブメントをそのまま、もしくはカスタムして販売するメーカーも多かったのですが、大半のメーカーが中身がETAでケースだけ作って売る(日本ではエタポン、ETAをポン付けしただけの時計と呼ばれる)(よくフランクミュラーが槍玉に挙がる)ようになり、色々あってETAの属するスウォッチグループがグループ外へのETAムーブメント供給を2020年に停止する事になりました。

なお、ETAムーブメント自体は非常に普及している事もあり修理できる時計業者も多く、安くて品質も安定しているため悪いものではありません。むしろ長く使う上ではETA製の方がなにかと有利で初心者向けです。

そうした中でマニファクチュールを目指すメーカー、ETA以外のムーブメント(セリタ等)を仕入れるメーカーなどに分かれていきます。有名なオメガやタグホイヤーも実は最近までETA製ムーブメントを使っていたのですが、上記の問題から自社製ムーブメントに移行しています。モーリスラクロア等のメーカーはセリタに移行したり企業の規模によって対応は様々です。

また、それとは別に中国ではETAムーブメントのコピー品が昔から作られており、いわゆる有名ブランドのコピー時計はこのような中華ムーブメントと偽のケースから作られており、当然見た目だけなので中身は粗悪で脆いパーツが使われておりすぐに壊れるというのは普通でした。

近年では高品質なムーブメントを作る中華メーカーも出てきており(有名なのはSeagull)、安価な機械時計には中華ムーブメントが採用されている事も多く、評判も悪くありません。
コピーだけでなくオリジナルのムーブメントも作るようになっており、中華時計=粗悪という構図も全てには当てはまらなくなってきていると思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーここから本編
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さて、例の時計ですが、機械式のスケルトンウォッチで、機械フェチにはたまらない見た目をしております。

人気ゲームのコラボ商品で機械式時計というのは珍しく、また値段も機械式としては安く抑えられており時計に興味がない人にとっても魅力的な製品になっていると思います。

ただ、中身が見えているとその素性が気になってしまうのがオタクの悲しい性で、すぐさま製品ページを見たのですが肝心のムーブメントの表記が「自動巻き」としか書いておらず詳細が一切不明です。
「中国製」と書いてあるので中華ムーブメントなのは間違いないのですが、その正体が一切分かりません。

気になって夜も寝られない状態になりかけたのでずっと調べていたのですが、Amazonによく似たデザインの時計を見つけました。

かなり見た目が似ており、少なくともムーブメントの供給元は同じと考えられました。ドイツ製と書いてありますがおそらくムーブメントは中国製でケースと組立がドイツという事でしょう。じゃないと絶対にこんな値段で売れません(ドイツのマニファクチュールは50~80万円ぐらい)

このメーカーを調べているとインガーソル(かつてはアメリカの時計ブランドだったが今は中国資本)と関連があるようであり、じゃあそのインガーソルの時計について調べるとこれまたよく似た時計が出てきます。

これに採用されているムーブメントがIN 416という名称で、おそらく作っているのはまた別のメーカーだろうと予測。

最終的には寶泰時計(PTS Resources)という中華メーカーのカタログからZ2031というムーブメントを見つけ、おそらくこちらが例の時計の出処と思われます。

画像1

画像2

完全に一致?

これが寶泰時計のオリジナルのムーブメントなのか、それともコピー元があるのか、製造がまた違う会社なのかという所まではインターネットの情報ではこれ以上追えませんでした。

当然日本語ソースはないため英語も使いましたが有力な情報は得られず。
採用されている時計もなかなか見つかりませんでしたが大体3万弱~5万程度で販売されているようです。

例の時計の価格が3万程度なので、価格設定的にはむしろ安い部類だと思います(海外メーカーはブランド料が結構高いと思われる)。

ただしマイナーチェンジ品と思われるZ2033を使った時計はAliExpressで6000円で買えます(当記事記述時)。
(先に挙げたドイツの腕時計はむしろこちらに似ているためZ2033かその前のモデルのZ2015である可能性が高い)

中国人は派手好きなのでスイスや日本の保守的な時計よりもこういったスケルトン映えするデザインのムーブメントの方が好まれるのかもしれませんね。時計屋に行ってもこういう派手なスケルトンデザインの時計は大抵中国製です。スイス製のフルスケルトンは安価なメーカーでも100万ぐらいするのであまり買える人がいないというのもありますが。

スイス製のフルスケルトンが高いのは、元々見える想定でないムーブメントを映えるように設計しなければならず、品質を維持しながら作りあげるのが難しいという事でもあり、そうなると安価に出回っている中華のスケルトンウォッチはどうなのかな…という感じです。

いずれにせよ日本ではほとんど普及していないムーブメントのため国内の時計業者では修理をしてもらえない可能性が高く、基本的に故障したらメーカー送りになる事でしょう。中華メーカーという事もありいつまで修理対応して貰えるか不透明で5年後とかでは修理できなくなっているかもしれず、長く使える機械時計と言いつつも壊れたら使い捨てか飾りになるという感覚の方がいいかもしれません。

3万円でそこそこ本格的な機械時計が買えるのはコラボとか関係なく魅力的ですし、メーカーの素性もある程度はっきりしているので長く使うのでなければ機械時計入門としては良いと思います。

良い点としては
・安い(機械時計としては)
・ムーンフェイズやGMTなど比較的高性能な機構を搭載している
・出所がある程度だがはっきりしており、採用されている時計も多い

悪い点としては
・国内で修理できる可能性が低い
・どこまで修理サポートしてくれるのか不明瞭
・スケルトン向けの機構は設計で無茶をしていることがあるので普通の機械時計よりは故障リスクが高い

といった所でしょうか。

ファンアイテムの原価等を気にするのは非常に無粋ですが、個人的に気になったのでインターネットで分かる範囲で調べた事を記載しました。何かの役に立てば幸いです。


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