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個人的年間ベストアルバム2023(邦楽編)

前回の記事で壮大な前フリをしてしまいましたが、そんなわけで2023年の個人的年間ベストアルバムを紹介していこうかなと思います。
とは言えまあまあ長くなりそうなんで、とりあえず今回は邦楽のベストテンを挙げていければ。

「邦楽」と「洋楽」を分けて考えることの是非

このご時世に洋楽/邦楽(この呼称自体あまりにも時代錯誤なんだが)という縛りを設ける必要があるのかっていう話はよくありますけど、
結局どこの国の音楽シーンもドメスティックとグローバルの“二階建て状態”にあることは、ストリーミングの国別チャートなんか見てるとよくわかる。
であるならば、必ずしも「地のもの」と「輸入品(笑)」を同じ評価軸で語らなくてもいいのでは、というのが個人的なスタンス。
ましてやこの国の各種チャートを見れば、K-POP以外の海外の音楽を好んで聞いている人間なんて「棄却域の存在」と言っても過言ではないわけで。

例えばこんなデータ↓


2023年は「YOASOBIが世界で1位取った」とか「今世界でJ-POPが聴かれてますよ」的な言説が散見されましたけど、
結局世界から聴かれている日本の楽曲なんてほとんどアニメタイアップのソニー系アーティストばかりなわけだし、
そこ(=グローバルなヒットへ至らしめるにはアニメタイアップ以外のルートがほぼないという現実)を直視して語らないと何の意味もない話。
それならば、国内と海外で分けて考えた方が全然違う2023年の姿が見えて面白いと思うんですよね。

結局、音楽で言えばSpotifyやApple Music、映像で言えばNetflixやDisney+など、プラットフォームの上でコンテンツが“並列”になった今、
「そもそもグローバルな客を相手にしたコンテンツはない」「ローカルで突き詰めていかないと世界に見つかることすらない」っていうのは、そういう状況で奮闘しておられるクリエイターに共通する見解のようで。


そんなわけで、エンタメにおいては昔っから「ガラパゴス化推進派」の自分としては、今こそ「日本国内において音楽ファンの評価が高い音楽はこれだ!」と提示していきたいところ。
とは言え、2023年の邦楽シーンで「絶対的No.1」と声高に主張したくなるほど強烈な作品は(自分が触れていた狭い範囲では)なかったな~という思いがあるのと、
(どれも「良い」と思って選んでいるものの)前回の記事でも話した「名前で選んでる感」が満載で、正直あんまし胸張って言える感じでもない(笑)。

前置きがえらい長くなりましたが、そんな中で選んだものはこんな作品群となりました。それでは邦楽編ベストテン+α、お楽しみください。

個人的年間ベストアルバム2023(邦楽編)

10位:HARIKUYAMAKU『Mystic Islands Dub』

HARIKUYAMAKU『Mystic Island Dub』

沖縄・コザを拠点に活動しているプロデューサー/エンジニアのメジャーデビュー作。1965年発売の16枚組LP-BOX『沖縄音楽総攬』に収録された貴重な沖縄古謡の音源と、自身も所属するダブ・バンド「銀天団」による生演奏を組み合わせたそうなんですが、まさに久保田麻琴的なチャンプルー感覚が最高。

そもそも三線のどこかエキゾな旋律と、ダブのずっしり来るビートの相性が悪いはずはなく。それでいてちゃんとバンドサウンドとして聴きやすく、踊れるグルーヴになっているのがたまらない。これ聴きながら海沿いドライヴしたらどんだけ気持ちいいことでしょう。夏を待ちわびて季節問わず聴きたい一枚。


9位:cero『e o』

cero『e o』

「東京インディーの代表選手」なんて時代ははるか昔、先達からの陶酔も受けながら独自のサウンドを追求し続けてきたceroの5年ぶりとなる5作目。その進化の過程で何かと期待値が上がりすぎている感がある中、毎度上がってきたものはすげぇなとは思うんだけど、いよいよ音源で聴いてると「かったるいな」と思い始めてしまったことは記しておきたい。

それでも、ライブで見た時は新曲も適度にライブ仕様にアップデートされてすごく良かったし、長年サポートを務める各プレイヤーとのアンサンブルも圧倒的。「とっつきにくい」という一点を除けば特段悪いところも見当たらないんだが、いよいよバンドとして完成の域に差し掛かった今、次作で「解散」という選択を取りそうな気がしてならないのは僕だけだろうか。


8位:君島大空『no public sound』

君島大空『no public sound』

2023年は非常に精力的だった君島大空。1年でアルバム2枚出してましたが、フルアルバムとしては通算3枚目となるこちらを推したい。『映帶する煙』の方が評論家ウケが良さそうな香りはヒシヒシと感じるものの、個人的に君島大空はシンガーソングライターよりも前にギタリストなので、彼のギタリスト的な側面がより強く出た本作の方が好きでした。

とにかく冒頭“札”のオルタナ感満載なバンドアンサンブルでグッと掴まれ、直後の“c r a z y”へ至る展開は「うおぉ…」とシビれました。そっち方面でまとめるのかと思いきや、今時のトラックメイカー的なポップスを合間でブチ込んでくるので、(多少とっ散らかった感はあるものの)そうした「バンドマン」と「DTM小僧」という本人の相反する魅力が堪能できる一枚。


7位:KIRINJI『Steppin' Out』

KIRINJI『Steppin' Out』

KIRINJIの通算16枚目、高樹さんのソロプロジェクトになってからは2作目となるアルバム。2023年は未だに「今シティポップがキテる」ってことにされててウンザリしましたが(それで商売するやつのまた多いこと。なまじ売れちゃうのも困る)、そんな中で先達へのリスペクトを感じさせながら質の高い都市型ポップスを作り続ける高樹さんの仕事はもっと言及されていい。

5人編成時代はマジで傑作ぞろいだったけど、高樹さんのソロになってからもいい意味でそこと地続きになっている印象。特に先行シングルとなった“ほのめかし”と前年リリースの“Rainy Runway”は、どちらも「KIRINJI」節を感じさせながらもベクトルの異なるカッコ良さ。J-POPが世界に届いてると言うなら、こういう上質な音楽にこそ前に出てきてほしい。


6位:GEZAN with Million Wish Collective『あのち』

GEZAN with Million Wish Collective『あのち』

今や日本のロックシーンにおける「異端の王道」を突き進んでいる感すらあるGEZANが、トロンボーン+パーカッション+総勢15名のコーラス隊「Million Wish Collective」と共に生み出したアルバム。厳戒態勢の2021年フジロック、この編成での初パフォーマンスは見逃したんだけど、2023年のフジ(同編成としてのラストライブ)ではちゃんと現場で見て圧倒されましたよ。

こういう編成、表現形態になるとちょっと「思想強すぎ」って敬遠したくなる気持ちはわかるし、正直ライブ見てないと評価が難しい作品だとは思うんだけど、むき出しの表現欲求を4ピースでは形にしきれなかったのは容易に想像できる。これほど生々しい人力の表現を2023年に体感したことはしっかり記憶しておきたいし、「いつまで清志郎に頼っているんだ」は年間ベストパンチライン候補。


5位:OGRE YOU ASSHOLE『家の外』

OGRE YOU ASSHOLE『家の外』

OGRE YOU ASSHOLEの3年半ぶりとなる新作EP。個人的年間ベスト出し始めてから『100年後』(2012年)以降のオリジナル・アルバムは全部入れてるんで、このバンドに対する評価が甘いと思われてしまいそうですが、今作もたまんなかったです。一言で言えば、「今時ようこんなジャーマンプログレみたいなことやるな」という感じ。

ここ数年の彼らのライブって、ムダを削ぎ落とし続けた結果「ミニマルなビートに解体してそのエッセンスを細切れで提示する」みたいなスタイルになっていて。そうしたプロセスを体感してきた分、個人的には本作で結実したものは結構すんなり入ってきたんですよね(元々NEU!とか好きだし)。ただ、ライブでこれやられるとカタルシスに乏しいのでちとしんどい部分も(笑)。


4位:ROTH BART BARON『8』

ROTH BART BARON『8』

タイトル通り8作目となるROTH BART BARONのアルバム。『けものたちの名前』あたりから各種年間ベスト企画の常連って感じになってますが、今作もさすがの作り込み具合で、アンサンブルの巧みさ、響きの美しさにはちょっと呆然としてしまう。ロックの文脈にありながらこれだけ交響楽的なアプローチで曲を作り続けられる人は他にいないっすよね。

ここ数年はCMや映画、ドラマなどのタイアップも増えてきてますけど、こんなに映像との親和性の高そうなサウンドもそうそう無いだけに、いっそアルバム全編にわたってMV作るとか、逆に映画のサントラで全曲使うみたいなコラボレーションが今後あってほしいなと思ったり。ちなみに本作で一番好きだったのは“Closer”でした。


3位:GRAPEVINE『Almost there』

GRAPEVINE『Almost there』

2024年にデビュー27年目を迎えたベテランバンドながら、いい意味で大御所感を出さず、コンスタントに(というか驚くほどの勤勉さで)音源をリリースし続けているGRAPEVINEの18枚目。この人たちも所謂「97年世代」の一組ですけど、前作『新しい果実』といい本作といい、ここに来てさらに一段ギアを上げて異様な尖り具合を見せていることにゾクゾク来てしまう。

ある種の自虐とも取れる“雀の子”しかり、鋭い舌鋒で日本社会をおちょくる“Goodbye, Annie”しかり、そっからさらに踏み込んでディストピアを感じさせる“アマテラス”しかり、リリックの成熟度(エグさ)とそれに見合ったサウンドの選び取り方が最高すぎる。今の若手は2010年代の下北から売れたようなバンドでなく、こういう先輩をお手本にするべきなのでは。


2位:カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』

カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』

2023年の「J-POP」がYOASOBIとAdoの年だったわけですが、「日本語ロック界はこの人の年でもあったんじゃないか」と思うほどの大活躍だったカネコアヤノ。ほんの4~5年前デジハリの体育館でのライブを見てたこの人が、今やフジロックでトリ前のホワイトを埋めるくらいの存在になるとは。そんな彼女が年明けの武道館ライブ翌週にリリースした6枚目のアルバム。

『祝祭』以降もはやハズレ作などない人なので、過去作と比較してそこまで際立っていたかと言われると評価は分かれるかもだけど、個人的には冒頭の“わたしたちへ”で心わし掴みにされてしまった。12月に見たライブではこの曲を最後に持ってきてたけど、この爆発力は今後セットの中でも重要な位置を占めていくだろうなと思った。

フォークロック的なサウンドの曲が中心な中で、“わたしたちへ”や“タオルケットは穏やかな”のようなオルタナ全開のサウンドに振れた曲、“月明かり”のようなよりパーソナルな(ある種ベッドルームポップ的な)雰囲気の曲があったりと、サウンド面の進化は特筆すべき点があったのでは。数年後振り返った時、「新たなフェーズへと向かう重要作だった」となりそうな予感。


1位:Cornelius『夢中夢』

Cornelius『夢中夢』

ということで、2023年はCorneliusの7作目を邦楽のNo.1にしました。東京五輪のキャンセル騒動後初のアルバムってことで否が応でも「そういう見方」をしてしまう作品になってしまうけど、歌モノもアンビエント的な曲もMETAFIVEのセルフカバーもすべてひっくるめて、小山田さんが「今一度自身のキャリアを捉え直した作品」となったような気がしてならないというか。

“火花”にしても、坂本慎太郎が歌詞を書いた“変わる消える”にしても、どう考えても「あのこと」について言及してるようにしか思えないのに、いずれも騒動の前に出来ていた曲だったというのも不思議だし興味深い。併せて、(恐らくはレコーディング後に訪れた)教授や幸宏さんなど関わりのあった人たちとの別れのニュアンスも図らずも滲んで聴こえてくるような。

いろんなことを乗り越え、だからこそほとんどの作業を一人でこなして生み出したという本作は、これまでで最もパーソナルな作品になったような感じがするし、ある意味一番「聴きやすい」アルバムになっている気もする。いくらでも難しく受け取ることもできるけど、音色含めて古びていかなさそうな、耐用年数の高そうな作品。


別枠:坂本龍一『12』

坂本龍一『12』

ベストテンを出しておきながら本作を「別枠」なんてずるい立ち位置で紹介するのも何なんですけど、やっぱりこれは他の作品と分けて考えるべきでしょう。ということで、坂本龍一の「遺作」を最後に触れておきたいと思います。リリース的には『怪物』のサントラとかいろいろありますけど、本作は教授自身が制作した「新曲」が収められた最期のアルバム。

ここ数年はガンとの闘病が続いていて、本作にはそうした中でリハビリ的に生み出していった12曲が収められている。その「曲」というのが、もうアンビエントとしか形容のしようがない、ともすれば何かのサントラのようなシリアスでものすごく削ぎ落とした曲が並んでるんですね。というか、なんの飾り気もないむき出しの「音」がそこにあるような。

正直こんなに生々しい「生の記録」を音で感じることってないですよ。自分の状態を鑑みて、明らかに残り時間が迫っていることを感じながら、一音一音を持てる力をかけて刻みつけていくようなこの気迫。「音楽家・坂本龍一」として商業作品を数多く手掛けてきた教授が、恐らく自分のためだけに作った本作は、良し悪しで語れるもんじゃないなと。恐怖すら感じる作品。



はい、ということで邦楽編は以上となります。いや〜、書くことまとめるんでえらい時間がかかってしまった。もっとサッと出すつもりだったのだが…。その他ランク外にしたけど良かったものも順不同で羅列しときます。次回は洋楽編を。


・E.scene『HEAT』
・チョーキューメイ『LOVEの飽和水蒸気量』
・上原ひろみ『BLUE GIANT(オリジナル・サウンドトラック)』
・V.A.『On The Street Again -Tribute & Origin-』
・neco眠る『実家の鍵』
・TOMMY HONDA『Live at PUERTA』
・NUMBER GIRL『NUMBER GIRL 無常の日』
・EVISBEATS『That's Life』
・TESTSET『1STST』
・思い出野郎Aチーム『Parade』
・BUCK-TICK『異空-IZORA-』
・安部勇磨『Surprisingly Alright』
・CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN『tradition』

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