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マーダーボット・ダイアリーって、すこしだけ業務委託ASDダイアリー

※ASDとタイトルにありますが、あくまでいち当事者がそう感じただけで、医学的な正確さはこの記事にはありません


原語版の表紙の方が好き


日本版の表紙はラノベ風で手に取りやすいのはいいのだけど、弊機のルックスが幼すぎて、少年の容姿の戦闘ロボットはさすがに悪趣味すぎない?という気持ちになってしまうので・・・
作中で警備ロボットがさんざんな扱いを受けている描写もそれなりにあるし(どういう容姿ならさんざんな扱いを受けてもいいか、といわれたらどの容姿でもだめだけど、子供は特にだめ)


あらすじ


警備ロボットの「弊機」が主人公。
弊機の一人称で語られる物語。
プロ意識が高く頑固だが、傷つきやすいところもある弊機の性格が伝わってくる、柔らかく真面目な文体。
弊機は対人恐怖をこじらせたひねくれた性格なのだが、芯はピュアだと思う。なんか変に真面目。

弊機は過去の職場で、自分の意思ではない大量殺人を犯し、そこから所属会社のシステムに盲目的に従うことに疑問を抱き、システムをハックして、会社の指令に従っているフリをしている。(そして仕事を真面目にするフリをしながら、余ったメモリでドラマを見ている)

企業は嫌い、仕事は好き。
人間は嫌い、でも人間を守る仕事に誇りとやりがいを持っている。
自分に理解のある一部の人間は好きだけど、距離の近い付き合いはしたくない。

人間のことがわからないけど、自分の気持ちもわからない。感情に向き合いたくない。
実現したい夢もない。
しいていうなら、人のいないところに引きこもって延々とドラマを見ていたい。

という、仕事を通さないと他者と関わらない、極度に内向的な性格。


こういうひと、いるよね


能力は高いけど、建前とかメンツとか、ハイコンテキストな社会的やりとりが理解できず、会社政治に馴染めなくてフリーランスで現場を点々としている技術者みたいなやつだな・・・とか思ったりしました。

気持ちわかる(私は弊機ほどこじらせてはいないけど・・・)

自分は、診断は下りてないですがASD傾向ありとお医者さんに指摘されたことが数回あり(知能テストみたいなやつもしました)たしかに、小さいころから他者や外界に興味を持てず、社会のハイコンテキストなやりとりもわからず、政治ができないかわりに、技術力でなんとか生き抜いてきた者です。

いまはIT系企業で傭兵をしているのですが、外部の戦力として扱われていたほうが情緒が安定し、隣人扱いされると照れて熱暴走し、定型文でしか返事できなくなります。
退社後には、自分の内側に引きこもってローグライクゲームに耽溺し、気持ちを落ち着かせます。
なので読みながら(わたしマーダーボットなのかもしれん)と思うなどしました 中二病なのかもしれん

自閉的でこだわりの強いところ
人間社会の理不尽さを飲み込めないところ
好きなものにどっぷりハマるところ
仕事ではいきいきしてるところ、
仕事で会う人とは仕事の付き合いしかしたくないところ
誤解されやすいところ
人の好き嫌いがはっきりしているところ・・・
など、弊機に感情移入して読む人も一定数いるのではないでしょうか。

自分はそのような特性もあり、人外と言われるキャラクターの気持ちに共感することも多いので、この作品のように、社会に馴染めない者に少数の理解者が見つかり、その理解者への気持ちがハブとなって、少しずつ社会との関わり方を見つけていく様子は見ていて嬉しくなってしまいます。
自分に近い感じ方をするキャラクターが、周囲とうまくやっているのを見るのは嬉しいです。
(マーダーボット・ダイアリーは理解者が既婚の中年女性、主人公は無性別の人工生命、というところが今風で好き 恋愛以外にも強い絆はあるのだ)

もちろん弊機は変わり者で危険な存在なので、馴染めない人がいたり、誤解が解けないこともあるのですが、弊機が好きな人と好きなものを大切にしながら、少しずつ慎重に、好きなものや平気なものを増やしていく様子(自分で選んだ服を気に入ったシーンとか)は、希望だなあと思えます。

どんな存在も、自分に負荷のかからない量と速度で世界と関わっていけますように。

そして、弊機が人間にならずに警備ユニットのままでプリザベーションにいるように、無理に矯正されることなく、自分のままで社会と関わっていけますように。
(本人は変わり者の自分が気に入っているが、社会は自分を気に入ってくれないので、社会の要請により「治療」しなければならない ってこと、あると思うのです)
(この葛藤をメインに書いたSF「くらやみの速さはどれくらい」もすごく良いのでおすすめです)



アクションシーン


弊機は構成機体という存在です。
構成機体は、機械パーツと有機パーツ(いわゆる人体クローン)の組み合わせでできている人工生命で、情報の処理速度が人間に比べて相当に早い。
注意力を分割して、ハッキング用のコードを書きながら、仲間の身辺を警護しながら、ドローンを飛ばして周囲を警戒しながら、ドラマを見る なんてこともできてしまう。
マルチタスクうらやましすぎ。

そんなふうに、脳内のチャンネルがたくさんある弊機の一人称視点の小説なので、アクションシーンは少し複雑になります。
目の前の敵と戦いながらその映像を仲間に中継しながらドローンで偵察しながら・・・のように目まぐるしく、どこで何が起きてて、この文の主体は誰なんだ?となることも たまに・・・

あと、宇宙船内や宇宙施設が舞台になることが多く、宇宙施設に行ったことがないので少し様子が想像しづらかったりしました。
でもSF好きは、よくわからないところはなんとなく雰囲気で読むスキルを持っているので大丈夫です (どうかな)


弊機の生きてる世界、もっと見たい


続編(ネットワークエフェクト)も買ってしまいました。
冒頭から弊機節が炸裂してたり、プリザベーションでの日常がかいまみえたりして楽しい。

日常回をもっと見てみたいな〜と思いました。
プリザベーション調査隊の人数が多いので、ひとりひとりにフォーカスが当たることが少なく、なかなかキャラが掴めないのです。
弊機の周囲の人間たちや、プリザベーションでの生活を掘り下げる短編がいくつかあったら、本編にもっと入り込めるかも と思ったりしました。
ドラマ化もするみたいですね 楽しみ!