MONOの土田英生さんをPANCETTA稽古場にお招きして


MONOの土田英生さんは一宮がグランプリを受賞された2018年の「第9回せんがわ劇場演劇コンクール」で審査員をされており、同時期に京都芸術センターで稽古していると言うご縁で、5年ぶりの再会です。

一宮 :土田さんには「せんがわ劇場演劇コンクール」で審査員していただいて。

土田 :調べたら2018年で。あの時グランプリだもんね。

一宮 :はい、5年ぶりです。今(稽古を)見ていただいた印象を伺えますか?

土田:僕自身はずっと台詞のあるストレートプレイをやって来たので、勝手が違うなと。ただ、良いなと思ったことから言わせてもらうと、とても開放的な稽古場だな、時代は変わってきたなと喜びを感じました。

一宮:ありがとうございます。そこは結構意識的に、とにかく対話を、まずは相手の目を見て名前を呼ぶところから始める、とか。演出家というと、決定を委ねられてる感覚になりがちですけど、「みんなで創ろうよ、感じたこと出そうよ、その上で方向は出すけど、好きにやろうよ」みたいな。

土田 :段々時間も迫って来て、そろそろまとめなくちゃ、という時に、批判的に聞こえる意見が出て来たりしても気にならないですか?

一宮 :(メンバーが)感じたことを聞けるのが喜びで。隠す、抑える方がしんどくなって来ちゃうんです。基本的な方針としては「出来ないことやってんだから、出来なくていいよ」と思ってて。直前になると切羽詰まって来ますが、本番中に変わったら良いし、「毎回、その瞬間のトライとしてやって行こうよ」という感覚ですかね。

土田 :素晴らしいです。あとびっくりしたのは、これ毎回メンバー集めてるんですよね?

一宮 :そうですね、よく一緒にやってるコアっぽいメンバーも居るんですけ ど。

土田 :ワークショップをやったり、すり合わせもすると思いますが、共通言語や「見る先の景色」をお互いが理解できないと、形にしづらくないのかなと思って。

一宮 :そうですね、今回は「この場で作ろう」と言う企画ですけど、僕が脚本を書く場合でも、脚本に直結する稽古をする時間は少ないかも知れないですね。
あるシーンで台詞が出ない時は、「思ってないこと言わなくて良いよ」と。「こういう人とこういう人で、思ってること、とりあえずやってみよう」から「やってどうだった?」みたいな、「こういう人たち」として生きるための時間や、コミュニケーションに時間を割いてますかね。

土田 :脚本を書く時は、どこまで書かれるんですか?

一宮 :ト書きが結構少ないです。

土田 :それは「流れ」が書いてあるの?

一宮 :台詞は、書いてあります。

土田 :台詞はあるけど、その間、あいだの動きは書いてない?

一宮 :書いてないことがまぁまぁ有ります。今日観ていただいたシーンだと、ト書きだけとか。動きの指定をすることは少ないですね。

土田 :なるほどね。あとは……体のキレとか動きの「完成度」は求めるんですか?

一宮 :ダンサーやパントマイムアーティストの方ではないので、「中に感じてるモノ」を優先しますね。言葉に対しても、身体に対しても。歌も歌ってますけど、「正しく」歌うことより、今感じてること優先で。

土田 :なるほど。ところで、どういう経緯で、京都でやる事になったんですか?

一宮 :KIPPUの企画に通していただきました。過去何度か出しても通らなかったんですけど、今回、大人になって京都に立ち寄った時に感じた、中学の修学旅行では分からなかった京都の魅力を書いたら通していただけて。
「色んな歴史に触れられて、なんて豊かなんだ!」とか、「ロームシアター京都って平安神宮の鳥居のすぐ横にあるんだ、最高じゃん!」とか、「こういう気持ちで劇場入れんのか!」とか。企画としては、せっかく1ヶ月も滞在制作をさせていただけるなら、用意してきたものをこの場で稽古するよりは、ここで感じたものに身を委ねてみようと。
2022年に1週間劇場を借りて1週間で作品を作るという企画をやったんです。本番を楽しんでもらうというよりは、作られる過程だったり、生まれない時間だったり、”何か動いた瞬間”というのを味わってほしいなと、何も用意しないで集まったメンバーと音楽家たちでゼロからテーマを決めて。それが、キツいのはキツかったんですが、非常に面白みがあったので。

土田 :あそこに京都の地図(ノースホールのホワイエに展示しています)も貼ってありますが、俳優さんは東京の人?

一宮 :何度もやってるメンバー何人かは東京から。こちらでオーディションも開催して、こちらで出会った人たちも3人います。

土田 :で、みんなで京都を色々歩き回ったと。

一宮 :そうですそうです。前半はとりあえず外出て歩いて。

土田 :なるほどね。僕が住んでる辺りは貼ってないのがちょっと悲しいな(笑)

一宮 :僕ら芸術センター拠点で、歩きで移動しようということで、歩いた道を書いています。

土田 :はいはい。

一宮 :芸術センター拠点と、ロームシアターがあるあたりで。

土田 :確かに。だから真ん中の碁盤になってる「田の字地区」辺りが多いんだ。

一宮 :あそこ「田の字地区」って言うんですか!

土田 :そうそう。ホントに田の字になってるから。

一宮 :へぇ!で、この歌を知って、このあたりが中心に。

土田 :なるほど。丸太町より南になっちゃうわけですね。稽古期間はどれくらいなの?

一宮 :1月5日から29日まで、ここ(京都芸術センター)を使えて。1日8時間、週1から1.4回休みくらいの結構なペースでずっと稽古してます。

土田 :素晴らしいですねえ!俺はそんなにやんないからね(笑)

一宮 :何もないところからなので。

土田 :そうか、こっち来てからストーリーも考えてるんだ。

一宮 :はい。

土田 :なるほど。

一宮 :今のところストーリーもクソもないというか。なんとなく動いてみたシーンを、ひとまずやってしばらく寝かしてたり。誰かが建仁寺に行って龍の話を聞いて来て、ひとまず龍作ってみるか、とか。

土田 :あまりにも普段自分らがやってることと違うから、ちょっとびっくりしながら見てました。納得しました。

一宮 :色々なものの視点や、今当たり前に思ってる事とか、日常を面白がれたらいいな、みたいな。

土田 :普段は活動拠点は東京でしょ?

一宮 :そうですね、東京でやってます。でも少しずつ、せんがわ以降も色々な公募に出してて。PANCETTAは23年5月で10周年で、今11年目なんです。10年位東京の小劇場で繰り返し新作を出して、なかなか増えないお客さんと、知り合う人たちも演劇やってる人たちがまた来て、みたいな所に、もどかしさを感じつつも、思い切った何かができるわけでもなく。自分なりに少しずつステップアップしてるつもりではあったんですけど……

土田 :なかなか目に見えないですよね。

一宮 :そうですね。で、この2年位で、素敵と思う人に出会った時には足を運ぼうと思う様になって。せんがわのコンクールも今は運営側で関わってて、そこで出会った、なんか素敵だなと思う人の所に行って色々連れ回してもらったりとかで。足運ぶようになると感じることが全然違って「狭い視野でやってたな」と、

土田 :ちょっと閉じてたなと。

一宮 :そうですね。

土田 :ちょっと俗な話なんけど、小劇場の5年ごと危機説みたいなのがあって。大体5年目位で集団は1回息切れするんですよ、みんな。で、次10年目で、15年目で大体解散するっていう。PANCETTAはユニットだから大丈夫かな。

一宮 :最近は、がっちり腰据えて企画を動かしてもらうメンバーが集まってくれてて。今までほぼ1人で新作やって、次企画して、だったんですけど、それだと追いついてかないし、

土田 :経済的にも大変だよね?

一宮 :やばいですね

土田 :個人で持つことになる訳でしょ、下手したら。それちょっと耐えられないな。

一宮 :なんとか「大変なことには」ならず、

土田 :え!すごいすごい!僕たちはもう固定したメンバーで、劇団でやってきたんで、1人になるっていう不安はなかったんですよね。で、制作母体を会社にしたからお金もそこでって感じで35年来たんで。

一宮 :おー!素晴らしいですね

土田 :PANCETTAだとあと25年(笑)。続けることが全てじゃ無いけど。

一宮 :はい(笑)。でも、いわゆる「売れる」みたいなことの感覚は、負け惜しみとかではなくあまり無くって。もちろん仕事としてお金を頂いて、ということはしていきたいんですけど、この「PANCETTA」という企画でやってる限りは、徹底して「ちゃんと面白がれるか」が大事で。

土田 :うん、それ大事だね。そういう意味でいくと、僕は今日30分観てただけだったけど大丈夫な気がします。

一宮 :本当ですか!

土田 :こういうものをクリエイトしてまとめる力があれば、そこはいずれお金にも繋がっていくと思います。だから自分が評価されようという俗な野心も捨てない方が良いと思う。けど、それだけになると創り手は道を見失うので、そのために、この自分の創作現場、ワークショップの場でもある「PANCETTA」という場所を大事にしてやってくと、いい方向に行くんじゃないかなと僕は思いました。

一宮 :ああ、それは、そう観ていただけて嬉しいですね。だいぶ負けず嫌いでもあるので、悔しく思う事もあるんですけど、外で仕事をしてる時は、当然クライアントがいて、そこがやりたいことに自分の力を注いでお金をいただきながら、自分の場では徹底して面白く感じられる人たちと、面白いと思えることを続けていきたいなと思います。

土田 :パントマイムは、関西だといいむろなおきさん、東京だと小野寺さんとかいらして、僕も小野寺さんに自分の演出の時にステージングをやっていただいたり、いいむろさんにパントマイムを手伝っていただいたことがあります。彼らはクライアントに応える才能もありつつ、自分のユニットで、自分の公演をやっている。だから一宮さんもそういうことなのかな、という気がします。まだそこまで一宮さんの事を知らないから、軽はずみなことは言えないですけど、その両輪で回して行ったらいいんじゃないかなと、勝手にね、ごめんなさいね、偉そうに、

一宮 :いやいやとんでもないです!

土田 :と……思います。

一宮 :はい。ありがとうございます。

土田 :まず、とりあえず今創っているものをね、良いものをやっていただければと。

一宮 :そうですね。上手にまとめていただいてありがとうございました。

土田 :いやいや、こちらこそ、ありがとうございました。

一宮 :MONOの本番は…?

土田 :『御菓子司 亀屋権太楼』という新作の公演がまもなくあります。大阪公演が2月22日から、東京3月1日からザ・スズナリで、そこから北九州、長野の上田を回ります。よろしくお願いします(笑)

一宮 :ありがとうございます。

土田 :頑張ってください!

一宮 :はい、ありがとうございました。

                          
                   <text:志水由美子(わたげ隊)>

ロームシアター京都×京都芸術センター U35 創造支援プログラム “KIPPU”

「PANCETTA LAB 2024 IN KYOTO」

開催日時・会場

2024年2月1日(木)~ 2月4日(日)
2月1日(木)19:30開演
2月2日(金)19:30開演
2月3日(土)14:00開演/19:00開演
2月4日(日)13:00開演

ロームシアター京都ノースホール

予約:https://www.quartet-online.net/ticket/lab2024kyoto

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