平安なき繁栄

(かわせみ亭コラム#16)
 なぜ今日本は調子が悪くなったのかもう一度考えてみたい。本当の原因はどこにあるのであろうか。そもそも戦後の日本には何もなかった。全国の主要都市のほとんどは空襲により破壊し尽され丸焼け状態であった。食べるものも、着るものも、住む家にも、働く場所にも事欠いていた。 現在の日本よりも何百倍も何千倍も悪い条件にあった。この最悪の状況を救ったものは、最初に米国による援助であり、次に朝鮮戦争による特需であった。敗戦によって三百十万もの命を失ったが、同時に旧体制を保持してきた既得権益者集団も既存組織の崩壊とともに消え、生き残った若者集団に新生日本が託された。当時の日本は、これ以上に失うものは何も持っていなかったのである。
 その後の日本は、その持てる知恵・知識・組織力を発揮し、それらの若い力をもって世界が必要とする新製品を次々と生み出し、貿易立国によって国の繁栄を達成してきた。
 日本の繁栄の過程において、国民はその欲するところのものを次から次へと手に入れ、その欲望は限りのない所までいってしまったように思える。蛇口をひねれば大量の水がいつでもあふれ出すように、欲しいものがいつでもどこでも手に入れられ、大量消費が善とされ、お客様は神様ですというような言葉が巷に流布されるようになっていった。家庭においてはテレビ、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、自家用車のある生活が当たり前になり、外では便利の極みのコンビニ店が普通に二十四時間営業を行うようになり、深夜営業の飲食店では毎夜の宴会がそこいら中で行われている。実際、家の中は物であふれかえっており、不要なものを捨てるのにお金を払う時代になってしまった。実に贅沢の極みであり、人間の欲もよくここまで肥大化したものだと思わざるを得ない。毎年千九百万トンにも及ぶ食品が食べられることもなく廃棄されており、一方に生活に困窮し安住すべき場を持たない人々が激増しているような社会に本当の繁栄や平安は訪れないような気がする。

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