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新喜劇さん (84)


悲しみを明るく唄うのがロックンロールだと、誰かが言っていたのをいつぞや何処からか聞いて、深く感銘を受けたのが記憶にある。いや記憶だけでなく、何らかが心の芯に刺さっている。では落語は何なのか。時にはリアリティを求め、時にはファンタジーを求め、頭の中で現実と空想を行き来している。作り話をしているはずなのに、そこにリアリティがないと味気ないものになる。むしろ作り話だからこそリアリティが必要なのかもしれない。

”落語は人間の業の肯定である”
             〜立川談志〜

確かに師談志の落語は凄まじく、まさに業の肯定だった。しかし落語も多様化している。全てが業の肯定ではなくなっていると感じる。業の肯定でなくてはいけないと、業の肯定の服を着て、業の肯定の顔をしていた落語達は、今は各々の思う自由な服を着て歩いている。結果、落語は〇〇であると言いきれなくなった。業の肯定も含めるが落語は自由だ、となった。ロックンロールもそうかもしれない。悲しみを明るく唄うだけではなく、それもあるしこれもあるのがロックンロールだ、となるのかもしれない。

本日、お世話になった人のお墓参りに行った。よしもと新喜劇が好きだったので、仮に新喜劇さんと呼ぶことにする。 新喜劇さんは”談吉さんの落語会を手伝う会”の旗揚げメンバーだった。ある日の談吉さんの高座があまりに酷い出来だったので、見かねてお手伝いを始めたと認識している。以前やっていた池袋サンライズホールでの独演会で、音響と照明を担当していた。どう見ても不健康な体型をしていたが、健康診断では何処も悪いところはないと、良く自慢げに話していた。重い体で脚立に登り、汗を掻きながら照明の角度を調節していた。冬でもTシャツ一枚、首に手拭いを巻いていた。自前のフィルターを使い、照明の色を楽しそうに変えている姿は、灯りの強さと共にしっかりと目に焼き付いている。音響ではおすすめの音楽を持ってきたり、雨の日は雨の曲を流したり、落語会そのものを趣味にして、遊びながら手伝ってくれた。

東京だけでなく故郷帯広での落語会が出来たのも、新喜劇さんのおかげだろう。営業の下手な談吉さんに代わり、学校や福祉施設での落語会を企画してくれた。そればかりか女子大の中に入ってみたいという趣味丸出しの欲望を全開にし、見事に女子大での落語会を企画してのけた。帯広でも落語会の運営を楽しんでやってくれたが、何よりホテルで一人ドラクエ10をやるのが楽しみだったようで、パソコンとコントローラーを必ず持ってきていた。毎年帯広に行くのを楽しみにしてくれていたのが本当に嬉しかった。あまりに楽しみ過ぎて奥さんに浮気を疑われかけていたが、帯広クランベリーのスイートポテトを持ち帰ることで、家族のご機嫌をとっていた。とにかく営業が上手だった。JAGAのラジオも新喜劇さんが持ってきたものだ。 プライベートでは何度もよしもと新喜劇に連れてってもらった。新喜劇独特の笑いが好きだったのだろう。年末、初めて芝浜を演った時は、ご褒美に寿司を奢ってくれた。”出来はどうあれやったから”、だそうだ。

ある時から新喜劇さんは体調を崩して、お手伝いから外れた。それでも楽しい人なので、色々相談したりした。何度か入院したが戻って仕事をしていたので、このままずっとこういう感じで付き合って行く人なのだろうと思っていた。

先日、新喜劇さんとやり取りしてるメッセージで、奥様からご連絡をいただいた。 新喜劇さんが永眠しました、とのことだった。突然のことで驚いたが、奥様やご家族にとっては突然ではなかったのだろうと想像し、お世話になったお礼と感謝を述べさせていただいた。少しだけ奥様と新喜劇さんの思い出をメッセージでやり取りさせてもらい、ありがたいことにお墓も教えてもらった。 お墓の前で手を合わせ、お線香をあげた。

生きていればそのうち、家族や友人知人が亡くなるのは当たり前かもしれないが、だからといって慣れるものではない。石鹸で洗った手にはまだ、線香の香りが残っている。ちゃんとしたお墓参りが出来たのだろうか。何だかよくわからない。こういう気持ちの時にやる落語はないが、こういう気持ちの時に唄う歌はいくつもある。そこに落語と音楽の違いを感じるような気がする。

前回の文章に書いた、クロマニヨンズの鉄カブト。大好きなので歌詞だけここに載せてみる。今日日はネットの歌詞をコピペ出来ないらしいので、噛み締めながら書いていくことにする。

ザ•クロマニヨンズ
『鉄カブト』

届かない手紙を書く
知らない橋を渡る
届かない手紙を書く
帰らない人もある
雨乞いの真似事か
確かに水は足りないか
あの人の思い出は
守ってくれ
鉄カブト

届かない手紙を書く
気付かない振りをして
届かない手紙を書く
騙された振りをして
昨日までと違う人に
なったような振りをして
命はいい記憶だけは
守ってくれ
鉄カブト

守ってくれ 
鉄カブト

新喜劇さん、ありがとうございました!!


この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com