自分語り Part.2(後編)

免責事項 : この文章では、説明の冗長性を避けるために、リズムゲームと音楽理論の両方の領域での専門用語を使用します。該当する用語は適宜調べながら読んでいただけると、より理解が深まると思います。

参加動機や曲のコンセプトについては前回の記事をご覧ください。ここではセクションごとに区切ってより小難しい話をしていきます。あと最後の方に収録されてからの感想も述べます。
小節数はこのサイトの記述を基準とします。

小難しい話

m.1~16 導入部

導入の和音の時点でテンションが13thまで全積みなのは置いておいて、曲頭から出現するメロディの音形に印象を覚えた人は多いと思います。

当時「相関係数の低いMIDIノート」というものがマイブームになっていて、凡そメロディとは認知できないような音程で繋がったメロディを無窮動で動かすことの面白さを何度も擦っていました。Destination 2F29の前半のメロディ構築の源流は大体このアイデアから来ていて、さらにシャッフルストレートごちゃ混ぜというリズム上のトリックを明確にするために、9小節以降でシャッフルの要素を追加しています。
メロディトラックの音色は3種類あって、曲のセクションに応じて各音色のバランスを出したり引っ込めたりしています。

ドラムトラックの配置は、大半がキックが面・スネアが縁となるような譜面を想定しながら打ち込んでいます。というか私の曲の大半が当てはまります。

m.17~32 導入部

ここにPFのスクショをドロップ

それまで完全に無秩序に置いてきたメロディの音形ですが、このぶぶんでは完全5度間隔でのまとまりを形成するようになります。また低音域のトラックはここから追加されて、コード進行についても明瞭に聴こえるようになります。「完全音程」は今後の説明で複数回登場するので曲のキーワードと位置付けても良いでしょう。

「拍を食う」という表現があって、音楽的な重み(キックの位置やなど)が小節の1拍目より前にずらされるという技法はよく見られます。ならその逆を試してみようということで、この部分までの8n+5小節目のアクセントが1拍後ろにずらされています。このセクションではさらにそこにII♭-V♭-I進行(独自理論のトリトン終止であり、井荷麻奈実の最大の十八番)を噛み合わせることで、かんたんコース採用を想定した特徴的なリズムを裏に仕込むことに成功しているというわけです。

17小節〜
トリトン終止の一例

32小節には初めて5連符系のギミックが出現しますが、曲全体を通して5・9連符の出現はアクセント的な位置付けで考えていて、要所要所に留めています。ちなみにこの部分のメロディーも完全音程で駆け上がっています。

m.33~48 想定では第1ゴーゴータイム

前回言い忘れていたのですが、近年(ニジイロver以降)の太鼓チームは新規譜面に黄色連打を積極的に入れようとしている動きがあって、連打を入れられそうなある程度の長さの音符が曲中に配置されているかというのも公募戦略上では重要だと私は勝手に思っています。
作曲中の私はそのことにこの時点で気づいたらしく、今まで目まぐるしく動き回っていたメロディトラックの音形が初めて大きく変化します。

またこのセクションはピアノ音源を始めとした裏メロが入っているのですが、実は入れるかめちゃくちゃ迷いました。というのも取れる音が増え過ぎてしまうと、太鼓チームに対して作りたい譜面のビジョンが見えづらくなってしまうのではないかと思ったためです。ただ今思えば、曲としてのクオリティや、最近では裏譜面想定で譜面が作られる曲も増えたこともあり、結果としてこういった試みはしたほうがいいと思えるようになってきました。

40小節目も5連符が使われる部分ですが、ここは多くのトラックを敢えてユニゾンにして、完全音程の跳躍を強調させるという手法を使っています。音形のC-F-B♭-E♭-A♭-Eは、先述のII♭-V♭-I進行で用いたF-B♭-Eをルーツに持っているものです。
この部分に限らず、セクションが変われば流石にベースを動かしたほうがいいだろうと思い、コードを組んでいますが、できるだけ聴いたことのない配置となるよう心がけています。

41小節目より

Em11 - | - G9 | CM7 - | - Bm7 |
B♭add9 - | F - | E♭M7add6 DM9 | F#m7 Baug7(♭9) |
CM9 Cm6add9 G | B♭M9 Gm/B♭ AM7 |
Am9 D7 | FM7 AM9 | F#m7 - | Baug7(b9) - |

m.49~54

ここで初めて見かけ上の拍子が変化し、7拍子が挟み込まれます。ここで7拍子を使用したのはある意味で自分らしさの表現であり、ある意味でChallengersへのリスペクトでもあります。その後の2小節間は前セクションで裏メロとして仕込んだパートを少しだけ表に引き出すことで、それ以前まで前面に出ていたシンセの音色の一辺倒という印象を持たれることを避けています。

55小節目より

Em11(13) - | - - | C#m11(13) - | - - |
AM9(#11,13) - | - - | B♭9(#11,13) - | - - |
Em11(13)omit5 - | - Gadd(2,#4)/D | C#φadd11 - | - - |
FM9(13) - | - - | B♭9(13) - | - F8 B♭8 E♭8 |

m.55~70 休憩地帯、あるいは……

おなじみハイハット泥酔地帯です。ノートを打ち込む側としては、太鼓の譜面で音取り可能な範囲でどこまで配置をキモくできるかを最優先で考えていましたが、曲全体のうちでは休憩地帯にあたるため、ハイハットは譜面に反映してもしなくてもいい程度に考えていました(どうせ低難度譜面では譜面にできない配置なので)。

ちなみに、ドラムを"酔わせる"という概念を思いついたのは作曲するおよそ半年前のことです↓

m.71~78 再現部

前回とやっていることは同じなので省略。セクションが16小節から8小節に割愛されているのは曲の尺の都合です。

m.79~94 サビメロの提示

ここからが本番、という場面に値する場所だと思います。メインメロディの音形はここで新しいものへ変化するわけですが、このメロディをそれ以前のメロディの音形とできる限り対比させられるよう努めています。

ひとつは、このサビメロがメロディの作りとしてより身近であること。冒頭のランダムノート紛いの音の繋ぎ方ではなく、メロディを作る思考の下で作られたメロディであるため、一定のリフレイン(メロディ構成の中での反復)や音程関係による効果が見られると思います。要するにここのメロディは冒頭より口ずさみやすいということです。

もうひとつは、コード進行がここに来て初めて馴染み深いものが使われること。いわゆる丸サ進行(IV-III-VI)由来の解決の仕方を積極的に用いて、曲の持つ雰囲気自体をより身近に感じられるよう試みています。

セクション最後の小節が2拍削られているのは、実はこれも尺の都合です。公募作品は尺が2分に近ければ近いほど望ましいとのことで、削れそうな場所がないか探した結果変拍子が追加されました(曲の尺は2分10秒程度)。フレーズ終わりの空白が勿体無いなと思った時に拍を削るのは、この曲に限らず私がよくやりがちな手法です。

m. 95~108 四つ打ちはご褒美…?

コードとメロディの大部分はひとつ前のセクションの受け売りでできている部分ですが、曲調は大きく盛り上がります。実はこの場面にして初めてドラムが明確な4つ打ちを取り入れることで、それまでの複雑なリズムの曲調からの開放感を演出しています。より正確には、キックが「4分音符単位で刻まれた上に要所要所で細かい音が入る」という構造をとっていて、これは他の音ゲーの高速曲にありがちなパターンだと思っているのでそれを真似しています。

m. 109~116 サビのダメ押し

曲中で最も盛り上がる箇所ですが、それまで差し込んできた5連符・9連符を活用してより認識しづらいリズムを作り上げようという試みをしています。
具体的に説明すると以下のようになります。

  • 109~110小節、12分音符1個分アクセントを前にずらして(拍食い)、直後に10分音符の刻みを入れる。一見音符3個+3個でアクセントを取っているように見えて、実は音符感覚が微妙に異なる

  • 113小節、10分音符1個分アクセントを後ろにずらして(拍食いの逆)、小節全体を1+3+3+3のアクセントで構成する。この部分で初めて5連符の小節と9連符の小節が隣接する

m. 117~ ラス殺し地帯

最後だしトチ狂ったことやっても許されるべ!という思いで書いた地帯です。ベースとメインメロディがユニゾンになっています。124小節目の後半は黄色連打になると信じていたので、初見プレイでこんな音置いたっけ?ってなって、帰ってPFを確認したら本当に置いていました。もう少し真面目に考えるなら、曲冒頭のピアノとシンセ1個だけという構造に回帰した要素と発狂地帯が交互に現れることで、音楽的な緩急や面白さを狙っています。

総括

前回と少し話題は被りますが、「太鼓の達人」の公募では、「他機種音ゲーよりプレイ年齢層が広く、大衆向けにわかりやすい曲調が好まれる」という評価基準が加わるため、その分公募としての難易度が高いと言われているそうです。ボカコレ以外で曲を正式に評価される経験が0だった身分が言うのも烏滸がましくはありますが、私自身もメロディックでかつ小難しい曲調が好きなので、この曲を通したアプローチに共感していただけたのは、作曲者としても一ドンだーとしてもとても嬉しかったですし、私の音楽活動歴の中でも重要な成功体験として今でも心に残っています。

採用から譜面実装まで動いていただいた(上に小数点BPMの無茶振りを通していただいた)太鼓チームの皆様と、採用後の音源編集などで親身に対応して頂いた担当の方々に、改めて感謝を申し上げます。

PF概略

公募時音源を作ったPFです

1~17 : リズムトラック。サビとそれ以外でキック・スネアの音源を使い分けています
18~21 : コード用のピアノ(冒頭や中盤で使う)
22~23 : 裏メロ1
24~28・34~35 : 背景描写の音源群(下位譜面で音が取れるよう単純なリズムで書いている)。チューブラーベルやビブラフォンあたりは聴き取りやすいかもしれません
29~31 : サビのコード
36 : 裏メロ2
37~40 : メインメロディ
41 : ベース
42~44 : SFX

Logicでは一応5連符が置けますが、譜面にすることを考えて連符を使う小節は拍子とBPMを一括で変えています。この拍子とBPMはそのまま譜面に引き継がれているようです。


譜面実装後…

ギリギリ初見クリアしました。

個人的に予想していた譜面内容は『Challengers』と同等とかだったので、物量も難易度も高い水準で正直面食らいました。前半のHS0.75は希望通りとはならなかったですが、何分音符かを認識しづらくさせるという意味ではこれもまた上手いなと感じています。

よくありそうな質問

Q.使っているソフトは何ですか?
A.Logic Pro Xです。

Q.結局曲名なんて読むんですか?
A.公式としては『デスティネーション に エフ に きゅう』です。侮辱的表現でもない限り好きに呼んでいただいて構いません。

Q.おに譜面がクリアできません。助けてください。
A.BPMが300とかではないので、腕が譜面を覚えさえすれば上達するタイプだと思っています。リズムの整理のために12分音符をあえて1-2で取ったりするのも手です。ラストは私でも手も足も出ません。一緒に苦しみましょう。

Q.太鼓はいつからやっていますか?
A.AC版をガチり始めたのはブルーバージョン(2018年頃)からです。スローペースで少しずつ上達してきています。

Q.作者と一緒にセッションしたい!
A.こちらをご確認ください。

Q.今後も太鼓公募出ますか?
A.是非出たいです。

Q.Extendedバージョンを作る予定はありますか?
A.ありません。作曲当初から公募に出す尺で1つの作品として成り立つようにしたいという思いがあったため、この状態から何かを付け足すという構想は持っていないからです。

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