【サシ劇台本】先輩とボク。
登場人物
先輩:今回の登場人物である、
若者が憧れている存在。
バスケット選手。魅力ある人物。
若者:自由に生きたい!叶えたいことがある。勝ち取りたいものがある。
夢、理想を持ち、燃えている。
性格は、素直。すぐやる。
真似が上手い。吸収するのもはやい。
わりとなんでも平均以上にできる。
バスケでなく、音楽の道に行く!と決める。
〜ここから〜
先輩:勝ちたいなら、最後まで走り続けろ!
若者:はい!
先輩:だが……。
力む(りきむ)必要はない。適度に肩の力を抜きながら、
正しい方向で努力しろ!
そうすれば、実る可能性が高まる。
「正しい方向で、正しいやり方で、大量に行う」これが大事だ!
若者:はい!わかりました!
それって、「量質転化」(りょうしつてんか)っていうやつですね?
先輩:うむ。そうだ。
「量は質に転化する」これは、間違いない。
若者:はい!
若者:なにからやればいいですか?
先輩:そうだなぁ……。
きみはなにになりたい?
なにをしたいのかね?
若者:ボクは……(照れながら)
先輩のように、魅力的な人間になりたいんです!
もちろん、バスケット選手としても!
先輩:・・・
(照れながら)ありがとう。
しかしなぁ。
俺とお前は違う人間だ。
それぞれ魅力が違う。
だから、俺になろうとして、努力するのではなく、
お前が最高に輝くために、必要なことを努力してほしい。
そうしないと、何も実らず、苦しいままだ。
若者:(少し残念そうに)
……わかりました。
先輩:なんかすまんな。
若者:いえ……。
先輩:で。どーする?
若者:ボク…。最初は、先輩のような
バスケット選手になりたい!と思っていました。
でも、いま先輩の言葉聞いて、
思い出したんです……。
先輩:なにを?
若者:ボク…。音楽が好きだったなぁって。
先輩:ほぉ。
若者:これでも、いい声と言われたり、
きみのピアノとオーボエは、魅力的だね。言われたりしてきました。
先輩:ほぉ。
若者:でも、やれば誰でもこのくらい
できるでしょ?思ってたんです。
先輩:ほぉ。
若者:だけど、どうやら誰でもできる
わけじゃないらしくて。
先輩:ほぉ。
若者:……才能ある言われたんですよ。
先輩:おお!
若者:でも、先輩への「あこがれ」がすごくて、
バスケット選手になりたい!思ったんです。
そして、音楽から距離を取りました。
先輩:ほぉ。
若者:だけど……。
先輩:だけど?
若者:無性に演奏したくなる、歌いたくなることが増えたんです。
先輩:ほぉ。
若者:そして、演奏したり、歌ったりすると落ち着くんですよ。
先輩:ほぉ。
若者:だから、また演奏したり、歌うようになったんです。
先輩:うん。
若者:そしたら、感動した!
なんて魅力的な演奏なんでしょう!
とても魅力的な低音ボイスだね。
と言われることが増えたんです。
そう……。
ただただ好きでやっていたあの頃と同じかそれ以上に。
先輩:・・・
先輩:いまは、好きだけじゃないと?
若者:わかりません。
でも、「音楽の道」で食べていきたいとは、思っています。
先輩:なるほど。それは、中々いいストーリーだね。
きみは真似が上手いし、吸収するのもはやい。
わりとなんでも平均以上のことができる。
だから、どの道が最適か4年もの間迷ったのかもしれないが……。
もう、大丈夫だろう。
若者:はい!
若者:ですが、また迷いが生じたら、
どうすべきかわからなくなったら、
また相談しに来てもいいですか?
先輩:ああ。
俺は、お前を信じてる。
だから、大丈夫だと思ってる。
でも、お前自身がお前を信じられないと、
その才能は開花しないまま枯れてゆく。
それだけは、やめてほしい。
ここだけの話、お前の多彩な才能に
嫉妬してた。
俺にはバスケットしかないから。
なのに、お前は、バスケットもそこそこ上手い。
これは、脅威(きょうい)だった。
だから、益々打ち込んでいった。
圧倒的な差で勝つために!
「勝ちたいなら、最後まで走りつづけろ」これを実践したんだよ。
若者:・・・
若者:……。先輩がボクのことを脅威(きょうい)と思ってたなんて……。
嫉妬してたなんて……。知りませんでした……。
先輩:それはそうだろう。
そんなのバレたら格好悪いからな。隠してたさ。
でもまぁ。なんにせよ。俺にはコレしかないからな。
バスケットの道で生きていくさ。
そして、俺らしく自由に生きることにするよ。
若者:・・・
若者:わかりました。
ボクもボクの道を行きます。
先輩に負けないぐらい魅力的になります。
(適度に間を)
……ボクがそこそこ有名になったら、
演奏、歌声、聴きに来てくれませんか?
先輩:ああ。もちろん。いくよ。
有名になってからなんて言わず、
アマチュア時代から聴かせてほしいな。
若者:・・・
若者:ありがとうございます。
でも、今じゃない。そう思ってます。
ちゃんとしたものをお客様にお届けできるようになったとき、
ある程度の評価をもらえるようになったその時に、
ぜひ聴いてやってください。
先輩:ああ。わかった。
それで……。これからどうする?
若者:ウィーンに行きます。
先輩:ウィーン?
若者:はい。
ウィーンで腕を磨いてきます!
先輩:そうか…。わかった。
さみしくなるが、がんばれ。
応援してるからな。
そういうと、先輩はバスケットボールを
床から持ち上げ、シュートをしてみせた。
そのシュートは、とても美しく見とれてしまった。
そして、ボールがネットを揺らし、
下に落ちるその姿は、「終わり」と「はじまり」、
「いま」と、「未来」が、
実はつながっているものであること、
必ずゴールはあることを教えていた。
(ボールが地面に落ちるまで、見ている)
そう…。先輩のこのシュートは、
ボクにとって最高のエールとなった。
そして思ったんだ。
バスケットボールが揺らすのがネットならば、
ボクは人のこころに、癒やしと感動を
届けよう。
その人のこころに響く演奏、歌声を届けられるようになろうと心に決めた。
バスケットとの決別をする覚悟もやっと決まった。
だから、ボクが「バスケットボール」に
触れるのはこれが最後。
いままでの感謝と決別とこれからの覚悟を込めてボクはシュートした。
少しさみしいけど、希望に満ちた空がそこにはあった。
【完】