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愛すべき生まれて育ってくサークル(2016年)

1993年の7月だったと思う。元フリッパーズギターの小沢健二がソロになって、CDの発売前にフリーライブをするらしいよって、働いていた店の女の子が言った。13時から整理券を配ると聞いて、その女の子と2人で日比谷公園に朝から行った。

前の日は客のおばさんと深夜まで都内のホテルで遊んでいて、ほとんど寝ていなかった。

一緒に行った女の子は、背が小さくて白いTシャツがよく似合う可愛い子だった。髪が金髪の風俗嬢だが、昼間に見るその子は、ニキビもまだ残る普通の女の子だった。

当日は新聞にこんな広告が掲載されていたらしい。インターネットがない時代に、どうやってこの情報を得たのかは覚えていない。新聞でいきなり本日と告知するのが、今の時代にない雰囲気。(この写真は、20年以上も過ぎてからネット上にあったものを見つけたもの。テープレコーダーの持ち込みは禁止というのが時代を感じる。)

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当日、日比谷野外音楽堂は長蛇の列が出来た。列にいる人達に、赤い紙に粗く印刷された紙が渡された。歌詞カードだった。

そこに並んでいる人たちは、まだ曲を聞いたことがなかったはずだ。CDが発売前でどんな曲になるのか想像もついていなかった。(当日演奏された曲はCDにはリリースされなかったものもあった)

赤い紙の歌詞カードには「タイトル未定」と書かれたものがあり、その言葉に心がざわついた。

それが後にリリースされたときに、「天使たちのシーン」というタイトルがついていたが、曲より先に読んだこの詞以上に、心がざわついた詞は今まで一つもない。



これが当日の様子だと思う。(もしかしたらその年の秋に行った同じ場所での有料のライブかもしれない。)当日の様子は後に映像も発売されたような気がする。俺もここにいた。

歌が上手くない(というより下手)のはフリッパーズギター時代から知っていたし、同世代だった小沢健二はひ弱っぽく自分を見てるようで切なかったけれど、それでもこの一曲を聞けただけでその夜は来たかいがあったと思った。

ライブ会場のいる人たちは、メジャーになった後のファン層とは明らかに違っていた。

その後メジャーになるにつれてイメージが変わってしまい俺としては興味を失ってしまったが、この夜の詞はほんと神がかっていた。

真珠色の雲が散らばってる空に
誰か離した風船が飛んで行くよ
駅に立つ僕や人混みの中何人か
見上げては行方を気にしてる
神様を信じる強さを僕に
生きることを諦めてしまわぬように
にぎやかな場所でかかり続ける音楽に
僕はずっと耳を傾けている

こんな言葉をいつか自分も紡げるようになったらいいなと思いながら歌詞を読んだ。

俺の今の毎日のこと、いつか文字にして誰かが読むことになったらいいなとか、そんなことを考えていた。

一緒に行った店の女の子と、その夜はなぜかはしゃいでビールを飲んだ。その子の部屋でセックスもしないで眠りに落ちるとき、遠くで踏切が下りる音が聞こえていた。

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