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行くな、そう伝えてよ(2016年)

2016/03/12 10:38 
crooz blogにて書かれた記事です


 

行くなと強く言いたかったのに、

あの時、俺は言葉を飲み込んだ。

 

心の中では何かが崩れていくのを感じた。

 

食べていたハンバーグの味はしなかった。

 

盛岡の小さな洋食店だった。

 

「わたしね、帰ることにしたの」

 

親にさえ拒絶されてきた人生だから、うるさく騒いだらまた親に捨てられる、そんなクセが大人になっても抜けてなかった。

ただ、我慢して言葉を飲み込む。そんなクセがあの日の夜も顔を出してきた。

 

行くな、

ダメだ、

ここにいろ、

俺といろ、

そう強く言うのはもしかしたら嫌われるだけかもしれないけど、それでも言わなきゃならないことだったんだろう。

 

言えなくてベッドの中で毎日泣くだけになるなら、言って砕けたほうがいいんだよ。

 

言えなくて、それが最後になるよりは

伝えたほうがいい。

 

あなたが伝えるべきは

感謝だけじゃない。

 

あなたのわがままと想いと執着も、伝えたほうがいい。

あなたがいなくなってから、適当なやつだったと記憶されるより、ずっといい。

 

言わなきゃ伝わらないことは、感謝だけじゃない。

 

お行儀よくするだけが、恋愛じゃないんだから。

 

 

【ビハインドストーリー】

 

これを書いたのは、長年付き合っていた彼女と別れて一年くらい経った頃だった。

 

この飲食店で俺が聞いたのは、彼女が仕事を辞めて実家に帰るということだけだった。もともと期間が決まっていた契約社員だったし、更新しないことに決めた、そういう意味の話だった。

 

別に別れたいと言われたわけじゃない。実家と言っても100キロほど離れた場所でしかない。

当時、本気で結婚しようと思っていたし、多少住まいが離れたとしても関係は続けていけると頭では思っていたけれど、

実は俺はひそかに、彼女がこの人間関係に行き詰まりを感じていることを感じていた。

 

もちろん引っ越しも手伝ったし、実家に荷物を運ぶときにお母さんとも会っておやつも頂いた。彼女はそれを楽しそうに見ていた。

ありがとうねって何度も言う彼女に見送られて、俺はレンタカーで借りたトラックで街へと戻った。

 

来週また来るから食事でもしようかって笑顔で約束して。

 

大昔から変わらない笑顔で角を曲がるまで手を振っているのを、サイドミラーで見送って。

 

高速道路を走る道すがら、なぜだか涙が止まらなくなった。

 

引っ越しが終わったアパートに戻って、意味もなく写真を撮った。

本当に何の意味もない写真だったが、記念に残しておくことにした。

もう3年も見慣れた部屋だったから。

 

行くな、あの夜、そう言えばよかった。

 

結局、その引っ越しの後、1か月後に別れてることになってしまった。

 

俺が感じていた通り、ずっと悩んでいるようだった。悩んでいる理由は薄々分かっていたけれど。

今となっては理由なんてどうでもいい。

 

行くなと言っても意味はなかったのかもしれない。

もう決めている未来があったのかもしれない。

 

でもね、わがままは言うべきなんだよ。

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