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新しい評価のために(11/30ABE研究会開催レポート)

こんにちは! 研究所スタッフのくじらです。

2019年11月30日、ABE(Arts Based Education)研究会を開催しました。

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ABE研究会は、アートを使った教育(=ABE:Arts Based Education)について考え、試み、新たなものを創り出すための研究会です。2017年に発足し、現在第4クール目に突入しました。講師陣は、それぞれ現場でアートを使った教育を実践してきたオーハシヨースケ、岩橋由莉、羽地朝和の3名。

↓前回(10/19)の開催レポートはこちら↓

第4クールのテーマは「ABEの効果測定」。「効果測定」という単語は、企業研修の場でよく使われるものです。

企業研修の効果測定の際には、まず評価項目評価指標を定め、アンケート、テスト、ヒアリングなどを用いて測定します。もっと広く「教育」全般を見れば、学校教育で行われる定期テストを「授業の効果測定」と呼ぶこともできるかもしれません。


では、わたしたちのばあいはどうでしょうか。

ABE研究会が探求している「アートを使った教育」という分野は、その場で経験される感覚や、参加者どうしのあいだで起きることをとても大切にしています。

同じ「教育」ということばを冠されていながら、これらはたとえばテストの点数に比べるととても測りがたく、捉えづらいもの。そのせいで、ワークショップに参加していない人に効果を伝えることがむずかしかったり、ときに参加した本人でさえ自分の体験を明確にふりかえれていなかったりします。

では、測りがたく、捉えづらいものを大事にしつつも、同時にわかりやすく理解・説明するためには、いったいどうしたらいいんだろう?


そこを考えていくために、第4クールでは

① 「アートを使った教育」を実際に体感する
② 仮に作成したABEの評価項目と評価指標に則り、振り返り・効果測定を行う
②で行った効果測定そのものに対する振り返りを行う

という三段階に分けて研究会を進行することにしました。実際にワークショップを受けた経験をベースにしつつ、主観と客観を織り交ぜながら「ABEの効果測定」について考える、というのがねらいです。

今回の前半部分、ワークショップの担当はオーハシヨースケさん。アプライド・ドラマ(応用演劇)身体詩を専門とし、独自のメソッドも多数生み出しているパワフルなファシリテーターです。今回ははじめて参加された方も何名か加わり、ワークショップも振り返りもとても活発な時間となりました。

ここでは簡単に、その場で起きたことをまとめてみます。


導入:身体をつかって講義を受ける


今回のテーマは「ものがたりとナラティブ」。「ナラティブ」とは、一般的に「語られたこと」、あるいは「語るという行為そのもの」を指すことの多い言葉です。ABE研究会の講師はそれぞれ「ナラティブ」に独自の関心を持っており、そこから今回のテーマが決まりました。

★参考:ABE講師三人による「ナラティブ」に関するミーティングの一部

まずはテーマについての講義からスタート。

演劇教育家であるヨースケさんから見て、「ナラティブ」とは「語られる物語」。そこには、語り手の所作や口調、そしてその奥にある感情も含まれているといいます。

「ナラティブ」と「ドラマ」と「ストーリー」とを呼び分けて解説したのち、話は演劇史へ。キーワードは「感情」。猿楽からブレヒトまでを総覧し、演劇のなかで「感情」が果たしてきた役割を追っていきます……


……と、文字であらましを書くとなんだか難解に見えますが、ヨースケさんの講義はただの講義ではありません。各所でヨースケさんの実演が入ったり、自分たちでも演じてみたり、身体や感覚を動かしながら、流れるように進んでいきました。

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↑「感情がぶつかる瞬間」を実際に体験

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↑ブレヒトの「異化効果」を実演

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↑偶然できたポーズからストーリーを想像する(される)ワーク

講義を聞いていたはずだったのに、いつのまにか動いたり笑ったり大声を出したりと巻き込まれているうちに、かなり温まった雰囲気に。次のワークに移ります。


ワーク: 「感情」から問題を考える


つづいてはひとりずつ作業の時間。「うまくいかなかったこと」をワークシートに書いていきます。


このときいっしょに使うのが、「feel,think,act」の三枚のシート。それぞれに、

feel :「不安、心配、恐ろしい」「退屈する、興味がない、不満に思っている」
think:「私は被害者だ」「私にとって大したことではない」
act:「心配する、考え続ける」「支配する、仕切る」

というふうに、さまざまな感情・思考・行動のパターンが並んでいます。

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このシートを元に、先ほど書いた「うまくいかなかったこと」が起きたときの感情・思考・行動を記入します。

これは、感情から思考が生まれ、思考が行動を起こす……という考えに基づくもの。ひとが抱える問題の大元には「感情」があると仮定し、問題にどう対処できたかを考えてみます。


つぎにヨースケさんから提案されたのが、「自分をシンボルにたとえる」こと

たとえば、ヨースケさんのシンボルは「詰まったおもちゃのラッパ」。ここからヨースケさんは、「このシンボルが抱えている問題を解決するにはどうすればよいか?」と考えを進めます。

「詰まったおもちゃのラッパ」の場合であれば、必要なのは「詰まっているものを取りのぞく」ことかもしれません。では、「詰まっているもの」とはなんのシンボルなのでしょう?

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↑「問題」について順に話すワーク


このように、「いま自分が抱えている問題」をさまざまな方法で俯瞰し、解決へ導いていきます。力強く解決の方向へ進んでいくスタイルは、ABE研究会の講師のなかでもヨースケさん独自のもの。皆ところどころで悩みの声をあげつつも、楽しそうに取り組んでいました。

と、いうところでワークショップ部分は終了。なんと、このときでまだお昼前です。盛りだくさんでヘトヘトになりつつお昼休みをとり、いよいよ振り返りに入ります。


振り返り


午後は岩橋由莉さんにファシリテーターをバトンタッチ。午前のワークショップで起きたことを振り返ります。

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ここで使用するのが、「ABE振り返りシート」。

評価シート1129gazou(ヨースケ質問追加版)

これは、「ABEの効果測定」というテーマを考えるにあたり、わたしたちがオリジナルに作成したものです。

①回答する参加者にとって振り返りになること
②振り返りシートを通じて参加者にファシリテーターの意図が伝わること
③評価項目を自分たちで言語化すること

を目的とし、毎回振り返りを元にバージョンアップしています。(画像は最新バージョン)


前回レポートではとくに①についてふれたので、今回は③について。

前述の通り、効果測定の際にはまず評価項目評価指標とを定めなければいけません。そこで、ABE研究会としても評価項目を新しく作ろう、ということになりました。たとえばこの設問。

⑥答えが見つからなくても投げ出さずにその場にいつづけた(ネガティブ ケイパビリティ)
※0~5の6段階で記入

これは、「葛藤を持ちつつもその場に踏みとどまる力(=ネガティブケイパビリティ)」を評価するために設けた項目です。(★ネガティブケイパビリティについてはこちら

このように独自の評価項目を作成することは、参加者に振り返りのための新たな視点を提示するのと同時に、

「わたしたちはこういう能力(または経験)が大切であると思っています」

また

「アートを使った教育ではこういう能力を身につけられます」

という意思表示でもあるのです。


記入後、集計した表をみんなで見てみます。

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わりと解答が割れていたり、「0」があったり、「2.5」「3.5」が散見されたりと、なんだかツッコミどころの多い集計。おかげで語り出したいことが浮かぶのか、それぞれがワークショップでの経験を語ります。

「『ここちよかった』かどうか聞かれるとわからない。『ここちいい』って何?」

「主体的な疑問を持つには時間がなかった」

(『実感できたか』という設問に対して)体験はできたけど、実感はしてないかも」

……などなど、お互いの語ることにも触発されながら、さまざまな意見が飛び交いました。

そのなかで、どうやらアンケートのつけかたに違いがあるようだ、という話に。

「2.8くらいだったけど切り捨てで2につけた」

「みんなで話してからアンケートをつけたら変わったかも」

そこから、ある意味今回の本題でもある、振り返りシートそのものの振り返りに入っていきます。


人によって、数字の捉え方、設問の捉え方は当然すこしずつ違います。集計後、話をしているうちにその感覚の違いがお互いにわかってくる、というところが、今回の白眉だったかもしれません。

数字だとどうしても言い切れないことや、人による数値のずれが出てきてしまう。そもそも、どうして数字を採用したんだっけ? でも、数字で記入してから振り返ったからこそさっき話せたこともあったかも? 


あれこれディスカッションをするうち、とつぜん「記述欄が狭すぎる」というハード面に対する指摘が出ました。さらに、「0~5までをつけるためのバーが長すぎるから3.5をつけたくなるのでは?」という意見には、会場のあちこちから「ああ〜」と納得の声も。

結論として、次回からは数字をもっと狭く記載し、記述欄を広く設置することになりました。

ワークの内容やディスカッションの複雑さに反し、解決策はかなりシンプルなところに落ち着いたといえるのではないでしょうか。


次回(12/21)のお知らせ


と、いうわけで、第4クールは残り2回。最後はまとめの回なので、今回のようなワークショップ→振り返り という構成は次回で最後です。改善後の振り返りシートを体感できる最後のチャンスかもしれません。ぜひお越しください!

今回はヨースケさんの担当だったワークショップパートを、次回は岩橋由莉さんが担当します。テーマは「VOICEと身体性」

以下詳細です。


ABE研究会 第4クール 第4回

12/21 (ワークショップの体験を通した検証)
『ワークショップ③〈VOICEと身体性〉』」

◆ 開催日時
全日程10:00~16:30(予定)

◆ 会 場
中目黒周辺施設
※お申し込み頂いた方にご案内いたします

◆ 参 加 費
5,000円

◆ お問い合わせ先
(株)プレイバック・シアター研究所
中目黒ヘッドオフィス&サロン
TEL : 03ー3461ー4242
E-mail : info@playbacktheatre-lab.com

★第4回お知らせ記事↓

ご興味のある方はぜひお気軽にお問い合わせください!


(くじら)

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