ばかばかしさのほうへ追いつめられる(スタッフ日誌)
生理痛がひどくてすこし休んでから出勤させてもらった。
出勤したらすでにうららさん(先輩)がいて、植物に水をやってくれたあとだった。うららさんはお湯を沸かしている。ウォーターサーバーのボトルの水がなくなりかかると、なぜかお湯が先に切れて水しか出なくなるので、わざわざケトルで沸かして飲むのだという。
わたしは掃除機をかけながらそのようすをぼんやりみている。水を出しきったボトルを取りかえたうららさんからゴミを受け取って捨てにいき、もどってくるとお湯が沸いているので、わたしももらう。
つづいてストーブの灯油のいれかたを教わる。生理といい朝から液体のことばかりやっている。
うららさんがいると生活らしさがあって、いい。うららさんはひさしぶりに病欠から復帰したところなのだ。
と思って、「うららさんがいると生活らしさがあっていいですね」とそのまま発語してから、あっ、なんか失礼だったかもしれない、と思いなおし、「いや、うららさんが生活らしいということじゃなくて、やっている業務の内容に、っていうことです」と弁解した。
これがなにかといえばわたしの「生活らしさ」に対するあなどりである。
一度沸かしたお湯をふたりでおいしいおいしいといって飲んだ。
ホームページ作成のためエンジニアさんとやりとり。リニューアルに際して、数日サイトを閉鎖しなければいけないそうだ。台風で休校になる前日のようでなんとなく浮かれる。
さんざん悩んだ講師紹介ページに今月のカレンダーを入れるというのは良い案だったと思う。「とりあえずワークショップを体験しに来てほしい」という講師たちのかんじを出せている、気がする、とおもって、うれしい。
うららさんの復活により年賀状の宛名作業にとりかかることができる。うららさんにしかあけられないPCがあって、そこに宛名ソフトが入っているからだ。
そのデジタルにしてはみょうに神秘主義じみた状況を是正するべく、去年までと使うソフトを変えようとしているせいで、ひどく手を焼く。きょうのわたしたちは拡張子の互換性の問題だけに二時間くらい費やしている。
エクセルで作った住所録をべつのソフトでも読み込めるのかテストするために、
「テスト テス子」
というてきとうな名前が一人分だけ入った住所データを作ってうららさんに送ったら、ハガキの宛名面に「テスト」だけが表示された。住所も会社名も全部入れたのに苗字しか出ていないので、つまりは読み込み失敗なんだけど、反してうららさんは「あっ、ちゃんと表示されたね!」みたいな雰囲気になってしまった。
あわてて、
「いや、ちがうんです。たぶんこれはいま苗字しか入っていない状態ですね。テスト テス子っていう名前の情報を入れたので……」
「テスト テス子?」
「テスト テス子です」
と、説明しているときの、ばかばかしさのほうへ追いつめられていく感じ。
連名欄にはテスト テス男といれてある。
テス子は世帯主なのだ。
きょうは宅配便の出入りがおおく、佐川さんから荷物をうけとって、ヤマトさんに荷物をあずける。
ひとり出勤のときのほうがさみしいのでこういう外の人とふれあえる業務があってほしいんだけどなあ、とおもいつつも、きょううららさんがいることと、きょう宅配便のひとがちらほら出入りすることとのあいだに、相関関係がないとは思えない。なにかしら関係というか、必然性があるような気がする。たぶん。ほんとうになんの根拠もないけど。
300人くらい記載された住所録のリストを、もののためしにA3用紙3枚におさまるように印刷してみたら、暗号みたいに文字が真っ黒に詰まった紙が3枚でてきて、ひとしきり笑って、すみやかにシュレッダーに送った。
個人情報のなかではかなりおもしろいほうだった。
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