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DIY MUSIC on DESKTOP 2021への出演

2021/05/01(Sat.)

 今日はMaker Faire Kyoto2021の関連イベントであるDIY MUSIC on DESKTOP2021(以下、DIY MUSIC)に出演しました。本来はオンサイトイベントとして開催される予定だったMaker Faire Kyotoでしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてオンラインでのイベント開催に変更となりました。それに合わせてDIY MUSICもオンライン開催となり、通話アプリのZoomを使って各出演者が自宅デスクから中継する形式になりました。
 僕もMaker Faire Kyotoに滑琴関連の展示を出展しつつDIY MUSICにも滑琴で参加する予定でした。3月末にオンラインでの開催が決定してから、展示関連はTwitterを中心に開催されることとなり、Twiiterに参加していない僕は出展できないと考えていました。しかし、4月初旬にオンライン開催されるDIY MUSICへの出演打診の連絡があり、展示は参加できない代わりにパフォーマンスで出演したいと考えるようになりました。

▲滑琴の演走の様子


 ただDIY MUSICはデスクトップ(机の上)をテーマとしたイベントのため、当初パフォーマンスで使おうとしていた滑琴と相性が悪いように感じました。滑琴はスケートボードとエレキギターを合体させた自作楽器で、ギターのように脇に抱えて演奏するのでなく、実際に楽器に乗って街中を走行することで演奏できる(=演走)ことに面白さを感じています。机の上に滑琴を置いて指で弦を弾いて演奏することは、市販のスティールギターを使って演奏することと同じ状況なので、避けたい気持ちがありました。新しい楽器を作るということは新しい音楽(=ノイズ)を生産することなので、現存するような音楽を再生産していては意味がないと思うのです。
 また今まで制作してきた自作楽器の中にも机の上で展開できる作品がいくつかありますが、それらを使ったパフォーマンスをオンライン配信する意味も見出せませんでした。楽器とはあくまでも音楽生産のための道具だと考えており、ユーザーが楽器に触れることで新たな音楽表現の活路が生まれるものだと思います。自作楽器を開発者である自分自身が演奏している様子をオンラインに配信するのでは、楽器の機能を紹介するだけの安易なプレゼンテーションになってしまわないかと危惧しました。単なる楽器単体にフォーカスしたパフォーマンスでなく、楽器の周囲で起きている出来事やユーザー自身も含めて、新たな世界が立ち上がる様子を示したパフォーマンスを目指しました。そこでコロナ禍の社会情勢をモチーフに取り込むことにしました。

 まず昨年からライブ配信が増加したものの自分自身は全く鑑賞していないことに気づきました。ドームやライブハウス、コンサートホールで行われている演奏の様子を手元のパソコンやスマートフォンで集中して鑑賞することができず、思わずベッドに寝転がったり途中でトイレに立ったりしてしまい、パフォーマンスの全容を見届けることができません。音の響きを体全体で感じるような大きな音を用いる音楽を手元の小さな画面で一体感を得ながら鑑賞することが僕にはできないのです。
 こうした自身の体験から、ライブ配信では大きな音を用いる表現より小さな音にフォーカスした音楽表現の方が相性が良いのではないかと考えるようになりました。大きな音でも小さな音でも配信にのせる際に十分な音の増幅を行えば、最終的な音量調整は鑑賞者側のデバイスで行われるので、大きな音を鳴らす必要がないのです。そのように考えれば、ライブ配信では音の拡声よりもマイキングによる集音の方が重要度が増し、実験的なマイキングやマイク装置そのものが表現になりうるのではないでしょうか?このような仮定から、今回のパフォーマンスでは小さな音や実験的なマイク装置を切り口とした内容にしようと決めました。

▲小さな音に着目した音響表現としてASMRが挙げられる

 またDIY MUSICの開催時期がゴールデンウィークだったこともあり、実家への帰省を検討していましたが、3月末からコロナの感染者が増えたことを受けて帰省しないことにしました。昨年までは感染者の数も少なく、長期休みの間に実家へ帰省することもありましたが、今回の感染拡大では身近なところでも感染者が出るなど、自らが感染源となって親に移してしまう恐れを感じました。このままでは次に会えるのはいつになるだろうと不安になったので、何とか会えるアイデアを考え、自分の分身として「耳」を実家に送るアイデアを思いつきました。

 自分の耳をモデルとした耳型マイク装置の制作については過去のブログを参照していただき、ここでは割愛します。

▲耳型マイク装置に関する過去のブログ

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▲パフォーマンスの様子

 実家との通信にはLINEのビデオ通話を使いました。親が操作にされている点とノイズキャンセルが弱い点で選択しました。Zoomを使った実験も行いましたが、ノイズキャンセルを弱める設定(オリジナルサウンドのオン)を行っても音質が改善されませんでした。
 LINEのビデオ画面をキャプチャするために、僕のiPhoneをMacにUSB接続して、QuickTime Playerの「新規画面収録」の機能を用いてパソコンに表示します。次にLINEの画面が表示されたQuickTime PlayerのウィンドウをOBSでキャプチャして、左耳を持った母親を左側、右耳を持った僕を右側に画面構成して、バーチャルビデオカメラ機能を使ってZoomに表示しました。
 Zoomやオーディオインターフェースに触ったことのない母親に使い方や接続方法を遠隔で教える作業は面白いプロセスでした。基本的にLINEのビデオ通話で話しながら機材の説明をしたり、相手のディスプレイ画面を想像しながら指示を出したり、カメラの画角を指摘したり...。極地探査ロボットを遠隔で動かすような新鮮なオンライン体験でした。でもきっとコロナ禍になって多くの人が親に通信技術を教えたり、遠隔でコミュニケーションを取る機会が増えたと思います。パフォーマンスではコロナ禍での親子のコミュニケーションもモチーフに取り込めました。

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▲配信のシステム図

▲DIY MUSIC on Desktop 2021でのパフォーマンス(48分25秒ごろから)

 本番のパフォーマンスでは10分という時間制限があり、あまり即興的に展開を考えていては十分な演奏ができないので予め構成を考えました。まず今回のパフォーマンスでは、ゴールデンウィーク期間でありながらも緊急事態宣言が発令されている状況に応じて、親と近況を話すシーンを入れました。パフォーマンスは楽器の演奏だけで成り立つものでなく、空間の特性や社会状況を巻き込むことで、それぞれの鑑賞者が自身の置かれている状況と照らし合わせて作品を体験できるようになります。パフォーマンス冒頭に親との即興的な会話を入れることでコロナ禍の社会状況や人々の態度を組み込めないかと試みました。
 会話が終わって本格的に演奏を始める段階では先に母親だけのソロパートを用意して、耳かきの音を集音する楽器の構造と左耳を操る親の演奏音は左側から聞こえることを視聴者に印象付けました。言葉でいちいち説明すると野暮ったいので、演奏を通して視聴者がルールを理解していく構成です。マリオブラザーズの最初のコースでも敵キャラの位置が絶妙にデザインされているので、プレイヤーは単にダッシュしてゴールを目指すのでなく、敵キャラの様子を伺ってタイミングを図る技術をゲームの最中に学んでいきます。僕の行うパフォーマンスでは自作の装置が出現するので鑑賞者自らがパフォーマンスを通してルールを統合する体験になるよう構成を工夫しています。
 パフォーマンスが後半に入り僕も耳の演奏に加わると「ゲーム崩し」を行います。前半まではパフォーマンスを通して鑑賞者がルール(パフォーマンスの目的や自作楽器の構造)を理解できるよう丁寧に見せていましたが、後半に入ると前半に提示したルールを自ら壊す「ゲーム崩し」を行い、パフォーマンスにダイナミズムを与えます。例えば、今回のパフォーマンスでは前半にハッピーニューイヤーの耳かき演奏を丁寧に見せることで「ハッピーニューイヤーを耳として扱うルール」を鑑賞者と一緒に組み立てますが、後半では金属片やドリルなどを耳の穴に突っ込むことで前半に組み立てたルールを壊しています。10分間という短いパフォーマンスでしたが、ルールの組み立てとゲーム崩しを素早く行うことで、後半部分に向かって展開が加速するようなパフォーマンスになったと思います。
 パフォーマンスの最後には家族からのサプライズとして誕生日ケーキが出てきました。ちょうどパフォーマンス当日が僕の誕生日だったので手作りケーキを用意してくれたようです。僕の関心であったオンラインパフォーマンスにおける実験的なマイク装置の可能性、それから緊急事態宣言下のゴールデンウィークという社会状況から発想されたパフォーマンスのアイデアでしたが、僕の予想しない部分(ノイズな部分)として家族からのサプライズが現れ、「音楽とは音を媒介にしたコミュニケーションである」という僕の音楽の定義に従えば、まさに遠隔での家族のコミュニケーションを提示した音楽だったと思います。昨年4月の緊急事態宣言からコロナ禍における音楽表現を探究して足掻いてきましたが、今回のDIY MUISCでやっと納得できるオンラインを前提としたパフォーマンスを行えました。
 これからは耳型のマイク装置の改良が主な作業になるでしょう。耳の形状である必然性が、音響効果や集音機構の動作原理として現れるような装置開発を目指します。

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