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光の彫刻を刻む写真家・佐藤時啓さんの写真展に行ってきました。

(会期が来週末なのですが、こちらの展示は是非ご紹介したいと思いました!)

■印画紙に刻まれた光の彫刻。

この写真▼、何の写真だと思いますか?

(展覧会チラシより)

森の中の…ほたる?妖精?
写真をCGで加工したもの?

(初めにビラを見た際はこんな印象でした。)

実はこれ、CGではなく「長時間露光」という、天体撮影などに使われる方法で、鏡に反射させた光の像を写し取っていったものなんです。

東京都写真美術館で開催中の

「 佐藤時啓 光―呼吸  そこにいる、そこにいない」

では、こういったユニークな光の使い方で作り上げられた幻想的な風景が並びます。

例えばタイトルに載せたチラシに使われているような「海」の写真。とても穏やかな海に見えますが、本当は波の高い海。
1-2時間もの長時間シャッターを開きっぱなしにすることで、″かわらずにずっとそこにあるもの"と、"強い光を発するもの"だけが像として残るんですね。

(TV番組で撮影の様子をみた際にはこんな感じでした。)

TV番組で山田五郎さんがおっしゃったいた言葉を借りますが、

写真というと「一瞬を切り取る」ものと捉えられがちですが、「光を積み重ねて像を作り出す」という写真の本質の部分に注目して光の彫刻をネガに刻みこんでいるような作品群でした。


展覧会では、このような海や森の写真のシリーズに加え、

・雪のシリーズ (◀︎雪の上についた「自分の足跡」が写真に残らないようにした工夫がまた面白かったです)
・街中でペンライトを使ってラインを描くシリーズ
・ポラロイドカメラで撮影したカラー写真のシリーズ

などが並びます。


■同時に存在し得ないものを一枚の写真に。

さらに、この手法の写真に留まらないのが今回の展示の面白かったところ。

「ピンホールカメラ」という、簡単に自作できるカメラの原理を使って、様々な新しい写真のアプローチもなさっています。

例えば、下の図のような球体上にピンホールカメラを配置したもの。

(写真:The siteシリーズ (2004), 「eyes」より転載)

このカメラで一枚ずつ時間をずらして撮影ものを組写真として展示されていましたが、

本来、目で一度に見られない「360度の風景(3次元)」に、
さらに「時間の軸も加わった(4次元)」の風景が、
写真という形で「2次元平面上」に再構築
され、なんとも不思議な世界が目の前に現れていました。


同じく手作りのテント型のカメラでは、「目の前の風景」を「足元の風景」に投影し、地の異なるキャンバスに絵を風景を描いたような写真が作り上げられていました。

(「Yura#2」(2013), 展覧会ガイドブックより)


■シンプルな方法で再構成した独自の世界をぜひ。

どの写真にも共通していることは、

非常にシンプルな方法で、
「光の積み重ねを記録する」という写真の本質を利用して、
演出写真でもストリートスナップでもない、独創的な世界を作り出している

という点です。

7/13までですが、とてもお勧めしたい展覧会です。

(今回の展覧会では、こんなミニガイドブックも配られて、作品をより深く鑑賞できるようになっています。素敵な試みですね。)


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■DATA■

佐藤時啓 光―呼吸   そこにいる、そこにいない

会 期: 2014年5月13日 ( 火 ) ~ 7月13日 ( 日 )
(休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館))

会場:東京都写真美術館
(JR恵比寿駅 徒歩7分、access )

料 金:一般 700(560)円/学生 600(480)円/中高生・65歳以上 500(400)円

(▲写美のエントランスには、こんな大きな写真パネルが並びます。植田正治さんの作品に入り込めそう…)

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▼オマケ▼

写真美術館では、
「世界報道写真展2014」
「スピリチュアル・ワールド」

も同時開催されていたので、こちらも観てきました。


世界報道写真展は、「ニューススポット」や「スポーツ」、「自然」などのようにテーマごとに賞が設けられていますが、いずれもニュースや思想のテーマに縛られず、写真の良し悪しで選出された作品とのこと。

性質上今回書いた佐藤時啓さんの対極のような「一瞬を切り取る」作品が多く並びました。

大賞の作品(チラシの写真)は、一見美しい月夜ですが、実際には出稼ぎ労働者の厳しい環境を撮影したもの。意味を知って考えさせられる作品です。一方で、目を覆いたくなる凄惨な現場の写真で、治安の不安定さを直接的に伝えたものも多かったです。
同じテーマでも表現方法は大きく全く変わるものですね。


ピリチュアル・ワールド、写美のコレクショ展。東松照明さん、土門拳さんなどの著名な写真家の方々の作品がずらりと並びますが、テーマがストレートに「宗教」なので、 あまり興味・知識がないとちょっと辛かったなぁというのが本音です。

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