優秀な人間を採用したがる経営者の落とし穴

ある社長へのインタービュー記事で「圧倒的に優秀な人しか来てほしくない。」と書いてあってこの会社はまずいだろうと思った。これはとても難しい部分である。基本的に起業をして、一定以上の成功を収めた人は勘違いする。創業社長は「1万人いたらその中で自分が一番仕事ができる」と思っている。しかし実際はそこまでということはなく、10人に1人くらいの仕事能力である。人口の上位1割。これでも相当優秀である。しかしこの乖離が大きすぎるのだ。そしてなぜ事業が成功したかと言えば、自分以外の要素がかなり大きい。タイミングがよかったからとか協力者が優れていたとか。そういうことが多い。しかし、創業社長に限って自分の力が殆どであると勘違いする。

創業者社長が勘違いするのはもう一つ、「自分はそれだけ優れているから人を見る目もある。自分ならば誰が優れているか、どうかわかる。」と勘違いする。人を見る目があると思う。仕事能力があっても、人を見る目がない人は山ほどいる。そして実際に、人を見る目のある人は滅多にいない。その人が10年後、20年後にどのくらい成功するかは、見抜ける人はそもそもいないのだ。だから優秀な人材を取りたいといった後に、それを自分に見抜けると勘違いして採用を始めると、勘違い集団が出来上がる。自分たちの基準における、優秀な人の集まりを作り始める。それはある意味でとても同質性の高い集団で、ある成長モデルの中では最適化されていても、ほかの成長モデルが出てくるとその瞬間に使えなくなる組織になってしまう。つまり多様性のない組織が完成する。しかも彼らは自分たちで、自分たちは有能だと勘違いしている。そのためなかなか変化することもできない。この時に本当に優秀な人材の集まりであれば未来はある。しかし実際は中の上くらいの人材が多い。本当に優秀な人材を集めることができる企業になるためには、主観的に優秀な人材ではなく、客観的に優秀な人材を採用しなければならない。これは極めて難しい。

ドラッガーの言葉を借りれば「人を見分ける力に自信のある人ほど間違った人事を行う。人を見分けるなどは限りある身の人間に与えられた力ではない。」ということになる。人材採用に力をいれると宣言する会社が自分たちは採用選考段階の改善で有能な人材だけを採用できると勘違いした瞬間に失敗していく。

そして、自分たちはそこまですごく優秀ではないのに、何か他の会社と違うことをしているだけで優秀なのだと勘違いしている社員だらけの組織になることが最大のリスクである。例えば抜擢人事として、入社1年目や2年目の人を管理職にするというのは大企業でもやろうと思えばできる。しかししないのだ。例えば、ある会社で入社2年目で部長職になった人が全国の入社2年目の中でとびぬけて優れているかというとそうでもない。それは殆ど大きな差はない。しかし、平社員のままの大学時代の同級生と比較すると自分はけた違いに有能だと勘違いしてしまう。それはあなたが特別優秀なのではなくて、少し優れているだけだ。会社が相当下駄を履かせているだけなのだと。これは当たり前のことだが、いざ当事者になると自己客観視ができなくなるのが若者なのだ。

もう一度ドラッガーの言葉を引用すると

「組織の優秀さとは、凡人をして非凡な働きをなさしめることにある。」ということである。つまり、人は1流の人材を集めて1流の組織を作ろうと思うが、往々にして、自称1流の均一性の高い組織ができてしまう。したがって、実際に集まるのは2流の人間であり、たまに1流や3流も多少混ざってくる。中の上くらいの人間の集団である。したがって彼らのような中の上くらいの凡人の寄せ集めでも、彼らが1流として動けるような仕組みを作ることが大切である。

例えばキーエンスはこの点が上手であり、そういう自称1流の人たちを集めて彼らを完全に管理して、マニュアルによりぎちぎちに管理している。そうして1分単位で行動を管理する。こういうやり方で凡人たちの集まりであっても成果が出る仕組みを作っている。年収の高さで自分たちは一流のサラリーマンであるという自意識は維持できるが、実際には、キーエンスという巨大な機械の歯車である。したがってキーエンスOBは、キーエンスを退社した後キーエンスで成功した秀逸なビジネスモデルをベースにして拡大生産することはできるだろうが、まったく未知の課題に対してソリューションを提示することが、特に、得意というわけではない。

アテネとスパルタを見ても同じである。スパルタというのは、とても強かったのにアテネに負けてしまった。これは、スパルタが自称1流の集まりであったからだ。このスパルタは決められたルールの中においては最強だが、そのルールが変更されればあっさりと負けてしまう。

太平洋戦争でのアメリカと日本、ポエニ戦争でのローマとハンニバル。のように過去の例を見れば、枚挙に暇がない。

今日のような変化の激しい時代にはあまり同質性の強すぎる組織ではない方がよい。会社のビジョンやミッションを示しそれに対しての熱意の高い人間を注力して集めていく方がよい。その際に現時点での能力のすべてを選抜できると思わない方がよい。

また経営者は自分たちの組織構成員は優秀だと思いたいものだが実際はそんなに優秀な人が集まることはないである。これはもうあきらめて中の中~中の上くらいの人間でも高い成果を出せるビジネスモデルの構築に専念した方がよい。




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