見出し画像

3乗式の「立方完成」とその本質、そして「多項式の標準化」という視点

 タイトル画像は、$${y=x^3+3x}$$のグラフです。
 いやはや、これまで3次式は$${y=x^3}$$が究極の姿で、それ以外はSの字を90度左に回転したものしか見たことがなかった(気がするだけ)と思い込んでいたけど、原点を角度を持って横切るのもあったんですねえ。

3乗式のパターン

 長年数学扱っていて盲点があるとは、思い込みは数学の敵。というより、いかに思い込みを排除し柔軟な発想をするか、数学はそれに尽きます。

多項式の標準化

統計学の標準化

 さて、統計学には「標準化」という手続きがあります。一種の変数変換により、同種であるが異なるものを同じ土俵に上げる手続きです。正規分布であれば、確率変数(要するに元の値)$${X}$$の平均を$${\mu}$$、標準偏差$${\sigma}$$とすると

$$
z=\dfrac{X-\mu}{\sigma}
$$

 一見難しそうですが何のことはない、ざっくり言うと、無理やり平均をゼロ、広がりを1に合わせる手続きです。ずらしてセンタリングしてからスケーリングする、と言い換えてもいいです。
 標準化の利点は、左右対称になり、大きさも整うことにより、異なるものの比較が可能になるところにあります。

2次関数の平方完成と標準化

 中学校からやってきた2次関数では、因数分解と並行して、平方完成という手続きで解を求めることを学びます。解の公式は、平方完成を自動化しただけなので本質的には平方完成と同じです。解の公式の導出が

$$
\begin{align*}
ax^2+bx+c&=0\\
\left[x^2+\dfrac{b}{a}x\right]+\dfrac{c}{a}&=0\\
\left[\left(x+\dfrac{b}{2a}\right)^2-\dfrac{b^2}{4a^2}\right]+\dfrac{c}{a}&=0\\
\left(x+\dfrac{b}{2a}\right)^2-\dfrac{b^2-4ac}{4a^2}&=0\\
\left(x+\dfrac{b}{2a}\right)^2&=\dfrac{D}{4a^2}\ (D=b^2-4ac)\\
x+\dfrac{b}{2a}&=\pm \dfrac{\sqrt{D}}{2a}\\
x&=-\dfrac{b}{2a}\pm \dfrac{\sqrt{D}}{2a}
\end{align*}
$$

 であることを見ても分かります。
 ここで、平方完成の本質とは何か?分からずにやっている人がほとんどみたいなので指摘しておきたいと思います。
 平方完成の本質は、2次式から1次の項を取り除くことにあります。
 1次の項がなければ、「変数の二乗=定数」の形になり、あとは両辺をルートすれば良い。そのための手続きです。
 同時に、平方完成を$${x \rightarrow x+\dfrac{b}{2a}}$$への変数変換と考えると、軸をy軸に持ってくる、つまり頂点のx座標を無理やりゼロにする手続きと捉えることもできます。
 つまり、1次の項がなければ、y軸に関して対象(線対象)になるのです。

 ついでに、$${y \rightarrow y-\dfrac{D}{4a}}$$とすると、頂点のy座標も無理やりゼロにすることができ、頂点を原点に持ってくることができます。 
 例えば、$${y=x^2-4x+6}$$であれば、平方完成すると$${y=(x-2)^2+2}$$となり、ここで$${x'\coloneqq x-2}$$、$${y' \coloneqq y-2}$$とすると、$${y'+2=(x'-2+2)^2+2}$$なので$${y'=x'^2}$$となります。

二次方程式の標準化

 統計での標準化で$${\sigma}$$で割るスケーリングがありましたが、2次関数の形や大きさを支配するのは$${x^2}$$の係数です。これははじめに全ての係数を$${x^2}$$の係数で割って$${y=x^2+\dfrac{b}{a}x+\dfrac{c}{a}}$$にすれば良く、つまり予め$${y'=ay}$$と変数変換を行なっておけば良いということになります。まとめると、どんな2次式であっても

$$
x \rightarrow x+\dfrac{b}{2a}\\
\\
y \rightarrow ay-\dfrac{D}{4}
$$

 と変数変換すれば、$${y=x^2}$$に強制的に持っていくができる、ということになります。
 これを、二次関数の標準化と勝手に呼んでみます。

3次関数の立方完成と標準化

 3次方程式$${y=ax^3+bx^2+cx+d}$$の場合を、2次方程式と比較して考えてみましょう。
 3次式の場合、平方完成に相当するものは立方完成と呼びます。
 立方完成の目的は、2次の項を消去することにあります。1次の項は普通は消えませんが、これだけでも随分扱い易くなります。やってみましょう。

$$
\begin{align*}
y&=ax^3+bx^2+cx+d\\
&=a\left[x^3+\dfrac{b}{a}x^2\right]+cx +d\\
&=a\left[\left(x+\dfrac{b}{3a}\right)^3-\dfrac{b^2}{3a^2}x-\dfrac{b^3}{27a^3}\right]+cx +d\\
&=a\left(x+\dfrac{b}{3a}\right)^3-\dfrac{b^2-3ac}{3a}x-\dfrac{b^3}{27a^2}+d\\
\end{align*}
$$

 ここで、$${x'\coloneqq x+\dfrac{b}{3a}}$$と変数変換すると、

$$
\begin{align*}
y&=ax'^3-\dfrac{b^2-3ac}{3a}(x'-\dfrac{b}{3a})-\dfrac{b^3}{27a^2}+d\\
&=ax'^3-\dfrac{b^2-3ac}{3a}x'-\dfrac{bc}{3a}+\dfrac{b^3}{9a^2}-\dfrac{b^3}{27a^2}+d\\
&=ax'^3-\dfrac{b^2-3ac}{3a}x'+\dfrac{2b^3-9abc}{27a^2}+d\\
\end{align*}
$$

 実はこの時、3次式の真ん中(点対称の点)がy軸上に来ます。
 ここで更に、$${y' \coloneqq y-\dfrac{2b^3-9abc}{27a^2}-d}$$と変数変換すると、定数部分が消えて、真ん中が原点と一致します。明かに$${x'=0}$$のとき$${y'=0}$$となりますので。

$$
\begin{align*}
y'&=ax'^3-\dfrac{b^2-3ac}{3a}x'\\
\end{align*}
$$

 微分して極値となる$${x'}$$を計算してみましょう。$${y'}$$は変数変換で使ったのでややこしいから、$${\dfrac{dy'}{dx}}$$とします。

$$
\begin{align*}
\dfrac{dy'}{dx}&=3ax'^2-\dfrac{b^2-3ac}{3a}=0\\
x'^2&=\dfrac{b^2-3ac}{9a^2}\\
x'&=\pm\dfrac{\sqrt{b^2-3ac}}{3a}\\
\end{align*}
$$

 原点を中心に左右の振り幅が$${\dfrac{\sqrt{b^2-3ac}}{3a}}$$のところに極値が存在することが分かります。3次方程式の判別式の一種として$${D_3 \coloneqq b^2-3ac}$$と定義すると、

$$
x'=\pm\dfrac{\sqrt{D_3}}{3a}
$$

とシンプルに書くことができます。
 注意。これは解ではありません。あくまで極値の場所です。

 この判別式$${D_3}$$は、極値の存在を判別する数値で、二次方程式の時と同様、$${D_3>0}$$なら極値が存在、$${D_3=0}$$なら原点のみ(2つの極値が原点に集合して一瞬だけ平らになる。要するに $${y=x^3}$$)、$${D_3<0}$$なら極値なし、原点を角度を持って通過する曲線(タイトル画像)ですね。

 さて、この時の極値は、$${x'}$$を元の3次式$${y'=ax'^3-\dfrac{D_3}{3a}x'}$$に代入して、

$$
y'=a\left(\pm\dfrac{D_3^{\frac{1}{2}}}{3a} \right)^3-\dfrac{D_3}{3a} \left(\pm\dfrac{D_3^\frac{1}{2}}{3a} \right)=\mp\dfrac{2}{27a^2}D_3^\frac{3}{2}\\
D_3=b^2-3ac
$$

となります。
 更に、三次方程式のスケールは三次の項の係数$${a}$$に支配されているので、$${a=1}$$とすると、3次式の標準化の完成です。

$$
y=x^3-\dfrac{D_3}{3}x\\
$$

 ちなみに、三次方程式の解の公式はあるにはあります。先人たちの偉大な業績はWikipediaに書いてあります。今回の方法は、途中まではほぼ「カルダノの方法」と同じですが、そのまま強引に突き進んで、解の判別と極値の計算を行なったものです。
 この標準化的な手順は、高校生でもわかる内容となっているのではないでしょうか。

3次式と直線の交点との関連

 さて、ここで得られた標準化された3次式の解を求めることを考えてみると、

$$
x^3-\dfrac{b^2-3c}{3}x=0\\
$$

 これは、固定された$${y=x^3}$$と、傾きが$${\dfrac{b^2-3c}{3}}$$で原点を通る直線$${y=\dfrac{b^2-3c}{3}x}$$の交点を求める作業と全く同じです。
 曲線と直線の差分をとる作業は、直線をx軸に回転移動する変換に伴って変換された曲線を作ることと同じです。2次式なら、形を変えずに頂点が移動するだけですが、3次式の場合は、ぐいっと形が変わります。しかし、交点となるx座標は変わらずx軸上に移動するだけになります。

y=x^3とy=x
y=x^3-x 交点のx座標は変わらない

 要するに、傾きが正なら、左右に顔を出す形になることが保証されるわけです。
 逆に、傾きが負なら、こんなことになります。

y=x^3とy=-x, y=x^3+x

 直線は原点以外では曲線にかすりもしないので、単調増加するしかありません。
 $${y=x^3}$$は右側ではぐいっと持ち上げられ、左側ではぐいっと下げられ、原点を傾き1で通過することになります。

 2次方程式の場合の判別式は、x軸と曲線との絡みを見て、本稿の3次方程式の判別式は、原点を通る直線と曲線との絡みを見ていることになります。
 4次方程式なら、おそらく3次の項を消去し、2次曲線と$${y=x^4}$$との絡みを見ることになるのでしょう(未確認)。

 以上ですが、誤植や計算間違いがあったら是非ご教示ください。
 多項式の標準化。この言い回しが正しいかどうかは分かりませんが、おそらく対称性を重んずる数学では、この発想は悪くないのではと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?