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気高き隠者

編集者時代は、体験取材と称していろんなセラピーやワークショップを受けていましたが、純粋に個人的な興味でセラピーやトリートメントを受けた体験はそれほど多くありません。
でも、仕事と絡めずに自ら赴くのには、それだけ惹かれる特別な何かがそこにはあるわけで……。
そんなふうに、個人的な体験として受けたい!と思ったセラピーのひとつに、ヒプノセラピーがありました。

ちょうど、友人にヒプノセラピストがいたのも、私にとってはフラグになっていたのでしょう。
実際にセラピーを受けた仲間からの評判を聞いていたので、必要なときにはその方にお願いしようと思っていたのです。
そして、ついにそのときがやってきました。
日常で起こる現実的な出来事と、自分の中で感じていることとの折り合いが難しくなり、もっと無意識を掘り下げる必要がある、と切実に感じる機会が訪れたのです。

体験取材で何度か経験したものの、ベッドに横たわって正式な(?)ヒプノセラピーを受けるのは初めてです。
さて、何が出てくることやら……。
期待と不安を織り交ぜながら、ベッドに横たわります。

草原をイメージさせる誘導によって私の中に広がったビジョンは、ススキあるいはエノコログサのような植物が広がる草むら。
そこから空に向かう透明な階段を昇っていくと、両扉のドアがありました。
ドアを押し開けると、一面光の海。
「立ってるの?浮いているの?」
セラピストの質問の声でよく状況を確認してみると、どうやらここは雲の中。
下には、緑の大地が見えていました。
その緑の大地に向けて意識を降ろしていきます。
緑の大地は、地上に近づくにつれて森へと姿を変えていきました。

森の中へと降り立つと、そこに1軒の白い家がありました。
意識を家の中へと向けていくと、リビングには燃えさしの残る暖炉があり、一人掛けの布張りのソファと複数掛けの革のソファがあります。
そして、どこからか香ってくるコールタールのようなにおい……。
気になって香りに意識を向けると、今度はパインの香りが漂ってきました。
そうか、この家はパイン材を用いられているんだ。。。
あまり生活感の感じられない家……。
別荘のようなものなのかもしれません。

「そこには誰かいるの?」
再びセラピストから質問された瞬間に、白髪で丸眼鏡をかけた老女の姿が現れました。
彼女はこの家で他者との関わりを持たないまま、つましいながらも精神的に満たされた暮らしを送っていたことがイメージで伝わってきます。
「この家に来る前にいた場所に戻ってみて」
誘導されるままに、時代を前戻りさせようとします。
しかし、ビジョンは何も見えません。
ただ、イメージとして伝わってくるのは「ジプシー」というキーワード。
恐らく、流浪の民としてあちこちを転々とした後、森の中に終の住処を見つけたのでしょう。
虐げられ、差別され、追われながらたどり着いた森は、身を隠すうえでも適した場所だったのです。

……と、そのうちに一面が火の海のビジョンに変わりました。
森の中で自然発火した炎が、住んでいた家に手を伸ばしたのです。
家の中が火に包まれ、彼女自身も火に包まれ、その身体は焼け焦げて黒い炭の固まりへと変わっていきました。
そこでハッと気づいたのです。
さっき香っていたコールタールのようなものは、人間の身体が焼けるにおいだったということに。
そして、炎の中で命を落とす彼女からは、孤独の中で一生を終えた寂しさが伝わってきました。

彼女の人生を通して伝わってくるメッセージ。
「私はどんな境遇であれ、自分の意志を貫いて生きたの。他人から見れば不幸な一生だったかもしれないけれど、私はとても幸せで満足よ」
「自分の意志を貫きなさい。そしてどのような状況に置かれても、気高く生きなさい」
彼女のエネルギーに包まれながら、私は尊敬と感謝の念を送り続けました。
そして、森の中の家を心行くまで味わった後に、誘導の声に導かれるようにして、現実世界へと戻ってきたのです。
それは、約1時間の時空を超越した旅でもありました。

この時空間旅行を通して、現実世界の私が学ぶこと。
それはやはり、人や社会に迎合せずに自らの道を貫いていくということなのでしょう。
それは周囲から見たら変わっていると思われることなのかもしれません。
それでも、本来の幸せや生きがい、そして魂の目的を追求するならば、誰が何と言おうとも、自分の道を歩んでいくべきなのです。
ビジョンを通して彼女が教えてくれたように。

炎に包まれて身が焼かれていった彼女からは、孤独感こそあったものの、自分の人生に納得して死を受け入れる潔さが感じられました。
富めるときも貧しいときも、心は常に気高き聖者のように。
彼女の体験を、私の前世の記憶のひとつとして受け止めながら、これからも清く強く美しくありたい……と、改めて自分の生き方について見直したのでした。

いただいたサポートは、人々や地球の癒しと成長に貢献する人やモノ・グループへと循環させてゆきます。ひとしずくの水が大海へと繋がっていくように、豊かさのエネルギーをここから世界のすみずみにめぐりめぐらせていくためのファースト・ステップに選んでくださるのだとしたら、大変光栄です💫