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経済学は人びとを幸福にできるか

"日本社会は現在、経済的、技術的観点からみて世界でもっとも高い水準を誇っているが、その反面、知性の欠如、道徳的退廃、感性の低俗さという面でおそらく日本に比較できる国は少ないのではないかと思われる"2013年発刊、本書は『社会的共通資本』の著者が思想遍歴を振り返る講演録、問題提起の名著。

個人的に自身も経済学部卒業と、著者の経済学は『社会の中で、どのような役割を果たすべきか』といった発言には関心があったことから本書を手にとりました。

さて、そんな本書は帰国後、自動車事故や大気汚染など環境問題の研究を通じて"すべての人びとが、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力のある社会の安定的な維持を可能にする自然環境と社会的装置"『社会的共通資本』を提唱、その充実こそが大切であると結論づけた事でも知られる著者が、東京大学大学院を卒業後、スタンフォード、カリフォルニア大学で研究活動、シカゴ大学での教授時代。そしてベトナム戦争に深く傷つき、東京大学に戻るまでの自らの思想遍歴を『市場原理主義の末路』『右傾化する日本への危惧』『60年代アメリカ』『学びの場の再生』『地球環境問題への視座』といったテーマで、以前の論考、エッセイ、書評をいくつか選び収録しているのですが。

まず"市場競争を優先させたほうが経済は効率的に成長する"とする新自由主義者(市場原理主義者)的な、かっての金融ビジネスに嫌気がさして、非営利活動にも足を踏み入れて何十年である私にとって、著者の繰り返し語るシカゴ大学で同僚だったミルトン・フリードマンへの批判には(些か偏っていたとしても)共感する部分が多かったです。

また、大江健三郎のノーベル賞受賞に寄せたテキストにおける大江健三郎、そして安倍公房の作品がどのように当時のアメリカ国内の知識人に評価、影響を与えたかについて。知らなかったので文学好きとしても興味深かった。

経済学を学んでいる方はもちろん、一級の知識人による戦後からの日本、アメリカ理解の補助線としてもオススメ。

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