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馬車が買いたい!

"筆者はひそかに、馬車の正確な理解なくして十九世紀フランス文学の理解もありえないと考えているのだが、それは、馬車こそが、すぐれて階級的な文化であったフランス文化の特質をもっとも端的に表している事物だったからである"1990年発刊の本書は19世紀パリの風俗・世相を豊富な資料で描く著者代表作、サントリー学芸賞受賞作。

個人的にフランス文学への理解を深めたいと本書を手にとりました。

さて、そんな本書はフランス文学者・文芸評論家である著者が【偶然通りすぎたパリ街道の由来に疑問を抱いた】ことをキッカケに、フランスの古典文学『ゴリオ爺さん』『幻滅』『感情教育』『レ・ミゼラブル』『赤と黒』等の《我らが主人公》たちが通ったであろうパリへの道筋を解読すべく、交通手段としての馬車はもちろん、文学からの引用や挿絵、豊富な資料を用いて、当時の交通、食生活、盛り場などがどんな様子だったかを明らかにしているのですが。

取り扱っている作品は、ほぼ既読であった為、以前に読んだ時は気づかなかった場面描写の解説はありがたく、作品に対する文化的、社会的理解が深まりました。

また、表題からてっきり馬車のことばかりが解説されているのかと思っていたのですが、それを皮切りに前述のように当時の食生活や盛り場とかの解説もあり、現代文明の豊かさをしみじみと有り難く感じたり。

フランス文学好きはもちろん、パリ、そしてフランスの19世紀事情を知りたい方にもオススメ。

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