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逆行の夏

"『あなたに贈り物をあげるわ』ピンクは手を伸ばし、冷たい指でわたしの両耳にそっとふれた(中略)わたしたちは美しい静寂と闇の中で生きている。"2015年発刊の本書は1980年サイバーパンクの先駆け的存在である著者の魅力が詰まったベスト・オブ・ベスト傑作選。

個人的にはメタバース、clusterで主宰している読書会でオススメされて手にとりました。

さて、そんな本書は人体改造やコンピュータを利用した設定のハードSF的作風で70年代後半から80年代のアメリカSFを代表する著者の中短編の中から新訳、改訳を含めた六篇が収録された傑作選で。地球が異星人に侵略され太陽系の他の惑星で生き延びている『ユートピア』的世界を描く〈八世界〉シリーズからは表題作の『逆行の夏』『さようなら、ロビンソン・クルーソー』の二篇。そして、事故で肢体不自由になった女性がサイボーク手術を受けて女優として自由を手にしていく米短編ベストの常連『ブルーシャンペン』や、不況や放射線汚染の広がる荒凉とした世界で三重苦(盲目、聾唖、発声不可)の人間達が集まって、街をつくる『残像』といった作品が収録されているわけですが。

著者の作品には初めて触れましたが、中では表題作の『逆行の夏』にはまさに【SF的なギミック、イメージの自由さや豊かさ】が詰まっていてワクワクさせられました。

また外見や、肉体の不自由さ、視覚や聴覚から【解放された世界でのコミュニケーション】をそれぞれに描いた『バービーはなぜ殺される』『ブルーシャンペン』『残像』には、私自身がメタバース世界で感じている可能性と重なって、非常に興味深かった。

70年代、80年代の先駆的、予見的なSF傑作集として、またメタバースに希望を抱いている人にもオススメ。

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