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チリ夜想曲

"わたしは今死にかけている。だが、言うべきことがまだまだたくさん残っている。かってわたしは心穏やかだった。寡黙で心穏やかだった。ところが、突如さまざまな事態が生じた。あの老いた若者のせいだ"2000年発刊の本書は死の床で神父の脳裏に去来する青春の日々。中篇傑作。

ラテンアメリカ文学といえば『マジックリアリズム』といったイメージがある中、それとは違う作品も読んでみたい。と本書を手にとりました。

さて、そんな本書は現在ではマリオ・バルガス・リョサ、ガブリエル・ガルシア=マルケス以来の成功を収めた、ラテンアメリカ文学を代表する作家としても知られる著者による中篇小説で。キリスト教のローマ・カトリック教会の組織のひとつ『オプス・デイ』に所属するチリ人の老神父が独り死の床にいる描写から始まり、高熱にうなされながら最後の力を振り絞って神学の道を志したころからの過去の日々、文学の師ファアウェルとの出会い、クーデターや軍政期下での『沈黙』の記憶が文学や美術、歴史に関するマニアックな記述、密度の濃いほとんど改行のない一人称語りで描かれているのですが。

著者の本は初めて手にとりましたが『マジックリアリズム』は使わず、比較的平易な文体て淡々と、核心を描かず周辺を説明していくようなテキストは新鮮で、個人的にはとても好みでした。

また(著者自身は50才と早く亡くなったようですが)私自身がまさに50才と人生の折り返し地点なので。本書の語り手、死の間際の回想である本書を読み進めながら、自分であったらどんな事を思い出すのだろうか。そんな事を考えていました。

ラテンアメリカ文学の傑作として、またチリに関心ある方にもオススメ。

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