見出し画像

眠れる美女

オススメ44。"たちの悪いいたずらはなさらないで下さいませよ、眠っている女の子の口に指を入れようとなさったりすることもいけませんよ、と宿の女は江口老人に念を押した。"1961年発刊の本書は、著者後期の代表作にして生と死のエロティシズムが溢れるデカダンス文学名作。

個人的には読書会の課題図書という事で、はじめて手にとってみました。

さて、そんな本書は海辺に近い二階立ての秘密の館に江口老人が『すでに男でなくなっている安心できるお客さま』として迎えられ、毎回鍵のかかる寝部屋に寝ている『眠れる美女』たちの肉体を添い寝しつつ観察しながら、過去の恋人や自分の娘、死んだ母の事を思い出していくのですが。

薬により何をしても起きない若い女性、つまり自我を奪われた女性にエゴイスティックに想いを寄せていく【行為自体には共感しづらい】部分がありますが、一方で、それでも執拗な肉体描写により『眠れる美女』たちを描き分ける技巧や、生と死を対比させた【沸き立つようなエロティシズム】は流石だな。と思いました。

ただ、本書の表題作以外に収録された二篇"『片腕を一晩お貸ししてもいいわ』と娘は言った"で始まる衝撃的、シュルレアリスム的な雰囲気漂う『片腕』そして、戦前の作品であり実際の事件を題材にしたミステリアスな『散りぬるを』の方が私的にはより好みだったかな?と感じました。

著者のいわゆる『魔界』テーマに連なる前衛的、実験的な作品が好きな方へ。また非社会的、退廃的な作品が好きな人にもオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?