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鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む

"鉄道は、ただ移動するために乗るものではない。景色を見て、様々な音を聞き、煤煙の匂いを嗅ぎ….という、それは五感の全てを刺激される乗り物。"2021年発刊の本書は鉄道紀行界の巨星二人、内田百閒、宮脇俊三の軌道を追って、鉄道『文化』を再考させてくれる良書。

個人的には、内田百閒好きという事もあって本書を手にとりました。

さて、そんな本書は「30代以上、未婚、未出産」の女性を自虐的に「負け犬」と定義した『負け犬の遠吠え』の著者としても知られる著者が、【なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う(特別阿房列車)【鉄道の『時刻表』にも、愛読者がいる(時刻表2万キロ)】といった冒頭の一文で鉄道好き、鉄道紀行好きには名高い内田百閒、宮脇俊三の二人が鉄道文化にもたらした『新しさ』について。生い立ちから、新橋駅に鉄道唱歌、戦中戦後、トンネルや音楽、酒に女、誕生鉄と葬式鉄といったキーワードを散りばめながら、文字通り『鉄分濃いめ』紹介しているのですが。

内田百閒の阿房列車シリーズは既読だったので(でもラストは知らなかった!)紹介される度に楽しく、また宮脇俊三は未読なのですが、内田百閒ともまた違う鉄道への向き合い方、愛情の注ぎ方が興味深かった。

また本書では移動に要する時間を無駄と捉えて、その短縮ばかりに努める『文明』に対して、俗世とは切り離された時間、それをより速く移動するのではなく、より深くその地を感じるために鉄道にのる『文化』を内田百閒、宮脇俊三は育てたとしていますが、こちらもコスパやタイパばかりが重要とされがちな現在、なるほど感があります。

著者たちのファンはもちろん、鉄道ファン、中でも『乗り鉄』の方々にオススメ。

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