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きょうのできごと、十年後

"河川敷に座っていた。夜の鴨川は静かで、というか、昼間と違ってよそよそしいくらいだった。暗くて、時間もぼんやりと流れている気がした。右側でも左側でも、いい年した男が泣いていた。"2014年発刊の本書は前作から10年後、30代の彼らの変わったり、変わらなかったりの再会を描く一冊。


個人的には著者単行本デビュー作でもある前作は未読なれど、行定勲監督により2004年に映画化された方は何度も観直すほど大好きなので『続編あったんだ』と手にとりました。

さて、そんな本書は前作で描かれた京都で開かれた大学生たちの引っ越し飲み会。そこに集まり、出会いすれ違う、一夜の男女の『できごと』から10年後。学生から30代の社会人になった彼らが、今度は仲間の1人が鴨川沿いにオープンさせたバルの5周年パーティーをきっかけにして再び集まりまた起きる。さまざまな一夜『できごと』が、それぞれの視点で描かれているのですが。

まあ『解説にかえて』で、行定勲監督が書いているように、意外にも?30代になった『彼ら』は前作から【予定通り。の人生にはなっておらず】それぞれに岐路を迎えていたり、新たな出会いをしていたりするわけですが。前述したように映画の方を何度も見ている私にとっては、【当時は若手俳優だった】田中麗奈、妻夫木聡、伊藤歩、柏原収史といった映画キャスト陣を読みながら重ねて【続編を観ている】感覚が自然にあって、懐かしさを覚えつつ、終始楽しませていただきました。(行定監督に加えて、著者本人?も作中に登場してくるのが、ファンサービス的にも嬉しいです)

また本作はいわゆる日常系。【日常に流れている刹那的な時間の豊かさと尊さ】を丁寧に拾い上げているのが魅力なのですが。前作の登場人物たちに加えて新たに登場するカリスマ女子大生歌姫のキカ、自転車で現れ去っていく不思議系キノコ女子も印象的で。派手なことは何も起こらなくても【いつまでも続きを読みたくなる】広がっていく余韻を残した感じが今回もとても良かったです。

前作ファンはもちろん、京都、大阪に縁のある人、あるいは"かって学生だった"社会人の方にもオススメです。

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