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何もしない

"生産性ばかりに固執する環境に反抗して『何もしない』人が、ほかの人が自ら修復するのを助け、そして次はその人たちが人間やそれを超えたコミュニティの修復を助けるようになることを望んでいる"2019年発刊の本書は注意経済から人間性を奪還する"活動家"のための一冊。

個人的にはシンプルなタイトル。そしてオバマ元米大統領の年間ベストブックというのに興味をひかれて手にとりました。

さて、そんな本書は『観察』をともなう作品を発表しているマルチメディア・アーティストにして、スタンフォード大の講師をつとめる著者による現在の情報過多社会。人々の向ける注意、個人ブランド磨き(いいねや再生回数)が価値を生み出すリソースとして、一部企業の経済的利益に繋がっている状況『注意経済』に対する【政治的抵抗としての『何もしない』を実践する】ためのフィールドガイドとして書かれたもので。

とはいえ、具体的な処方箋を提示するのではなく、1960年代のカウンターカルチャーから生まれた『コミューン』や哲学や文学の紹介、自身のアーティスト、教育者としての個人的経験といった話題を自由に展開しつつ、個人ブランドの対極にある【自己の内面やアイデンティティ理解】の必要性、オンライン上にはない【生物的、文化的生態系の修復】に注意を向けるべき。と提案しているわけですが。

普段から営利、非営利。そのどちらを選ぶわけでなく、また安易に折り合いをつけることなく【『狭間』や『周辺』】に世にも奇妙なフリーペーパー専門店という居場所をつくっている私からすると。『わたしたちの価値は、生産性では決まらない。わたしたちの注意は、企業が扱う貨幣ではない。わたしたちの目には、もっとほかに見るべきものがある。』の言葉、著者のスタンスには強い共感を覚えました。

また『注意経済』。一見するとSNSやアプリ、動画サービスで誰もが個人ブランド磨きで承認欲求が満たされている【幸せな状況】に見えるも、その実、企業の金儲けのために【人間性が閉じ込められ、ハックされている】ディストピア的状況の指摘と強い警鐘にも、普段からSNSを眺めながら同じようなことを考えていたので。深く頷くばかりでした。

毎日毎日、言葉や動画、音声、アプリでセルフブランド化する日々に嫌気や違和感を覚えている方に強くオススメ。

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