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グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船

"それは夏紀の爪の先が引っかかるくらいの何かだ。ちょっと引っ掻いて、指先でつまんで、そしてそっと引っ張ると、ただ目に見えているだけのこの世界よりももっと深い、『向こう側』とか『遠く』とかの世界が現れるのだ"2023年発刊の本書は並行世界の土浦を舞台にしたボーイ・ミーツ・ガールSF。

個人的に爽やかな表紙が気になって手にとりました。

さて、そんな本書はSF的歴史改変小説を得意とする事で知られる著者が自分自身の故郷である茨城県土浦市を舞台に書き下ろした作品で、月と火星に基地があるもWEBは実用化されたばかりの世界に住む夏紀、宇宙開発は遅れているも量子コンピュータの運用が実現している世界に住む登志夫。そんな二人が幼い頃に巨大飛行船『グラーフ・ツェッペリン号を見た』という共通の記憶があった事から出会うはずのなかった交流が始まるのですが。  

まったく違うのではなく、ちょっとだけ違う並行世界の二人が電子メールを通して知り合っていくのは、深津絵里主演のパソコン通信を題材にした1996年公開の映画『(ハル)』が想起されて、何だか懐かしくほのぼのしました。

一方で、二人の関係性がハッピーエンドにならず、世界のためにどちらかが犠牲になる終盤の展開はちょっと突然感があって、消化不良的なモヤモヤが残りました。

土浦に縁のある方、また夏に読むSF作品としてオススメ。

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