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「役に立たない」研究の未来

"私たちの知性には限界があります(中略)愚行の抑止のためにも、『役に立たない』学問には常に一定の役割が与えられるべきでしょう"2021年発刊の本書は3人の研究者によるオンライン座談会をまとめ、基礎研究の大切さ、科学と技術の幸福な未来を考察した良書。

個人的には研究と言わず『役に立つ、立たない』という短絡的な視点が嫌いなこともあり、タイトルに惹かれて手にとりました。

さて、そんな本書は2020年8月に理化学研究所と学術系クラファン『akademist』の共同企画として開催されたオンライン座談会『初田哲男×大隈良典×隠岐さや香ー『役に立たない』科学が役に立つ』の様子をまとめたもので。理論物理学専門の初田哲男、分子細胞生物学専門にしてノーベル賞受賞者の大隈良典、科学史専門の隠岐さや香の3人が第一部として『基礎研究の現状とこれから』について各自が話題提供を行った上で、二部では研究においても『選択と集中』が進む現状、研究自体のアウトリーチ活動、令和時代の『役に立たない』(とされる)研究、基礎研究の在り方という3つの論点について。議論を行っているのですが。

トップダウン型の研究費、経済的価値につながる『役に立つ』研究分野への資金交付への増加、つまり『選択と集中』施作に【共通して強い危機感をもっている】3人の研究者の発言はわかりやすく、また説得力のあるものでした。

また、3人の中では私自身が歴史好きということもあって、科学史の専門家としての隠岐さやかの古代ギリシア・ローマ時代まで遡っての【科学はいつから『役に立つ/役に立たない』を語り出したか?】話は特に興味深く。人類の歴史はやはり何度も繰り返しているのだな。という能天気な感想と共に、『役に立つ』と【学問や研究が道具として『動員』される危険性】について。あらためて感じ入るものがありました。

これから研究者の道へ進もうとしている方、あるいは基礎研究分野で不満を覚えている方にもオススメ。

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