見出し画像

命売ります

"世界が意味があるものに変れば、死んでも悔いないという気持ちと、世界が無意味だから、死んでもかまわないという気持ちとは、どこで折れ合うのだろうか。"1968年発表の本書は自殺に失敗した青年が必要とも思えない自らの命を売ろうとする連作形式、スピーディーなエンタメ小説。

個人的に『金閣寺』や『潮騒』など、代表作数知れず、戦後の日本の文学界を代表する作家の1人による"隠れた怪作小説"という帯に惹かれて手にとりました。

さて、そんな本書は自殺しそこなって"何だかカラッポな、すばらしい自由な世界が開けた"青年、羽仁男(はにお)が、会社も辞めて、新聞の求人欄に"命売ります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません"と広告を出したところ、さっそく不思議な買い手からの依頼『浮気した妻と一緒に死んでくれ』から始まり、続々と依頼が舞い込んでくるわけですが。

まあ。発表誌が当時の若者向きの雑誌『プレイボーイ』だけあって、厭世的な羽仁男はグラマー美人に怪しげな未亡人、同じく命を売ろうとする薬漬けのお嬢様と次々と関係を結んでいくわけですが。その展開の早さが次第にツボにはまってきます。

また、本書には『ACS(アジア・コンフィデンシャル・サーヴィス)』という謎の組織の存在が仄めかされ、全てのエピソードを繋げていくのですが。多少の駆け足感は感じましたが、終わりまでのテンポ良い展開は流石だなあと感じました。

著者ファンはもちろん、昭和の時代を感じさせる連続エンタメ短編に興味ある方にも是非。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?