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古代人と夢

"完全な覚醒がないように、完全な眠りも存しない。夢のなかで人は醒めたときと異なる種類の言語を用いるわけではない。むろんその言葉はわかりにくいことが多いけれど、しかしそれは解読可能、つまりインテリジブルなのである。"1993年発刊の本書は日本古典文学の碩学による独創的精神史。

個人的には著者の本は未読だったので手に取ってみました。

さて、そんな本書は英文科に進学するも、その後に短歌に傾倒、日本古典文学の研究者になった著者による一冊で、日本の古代から中世まで夢の記述が豊富であるにも関わらず『まともな研究』が行われていない。と、日本書紀、源氏物語、今昔物語の事例を取り上げた上で、古代人の夢経験そのものの分析ではなく、夢の性質や型、態度について着目、古代においての夢とは"人間が神々と交わる回路"であり、また"神や仏という他者が人間に見せるギフト"である。と、独創的な解釈が繰り広げられているのですが。

私自身、美術史の観点から何度も出来事や作品としての日本史に触れてはきましたが。確かに文学作品の中に出てくる夢について、著者が指摘するように着目した事はなかったので、本書の視点はとても新鮮でした。

また、本書では法隆寺の夢殿、長谷寺(更級日記)、黄泉比良坂(洞窟)と、著者の豊富な知識、引用のもと、自由な語りが展開していきますが。まるで本書自体が夢であるかのような、不思議な読後感でした。

日本の古代から中世の夢について。考察したい方の補助線としてオススメ。

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