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押絵の奇蹟

"私は一生のうちに一度はキット、あなた様からの結婚のお申込を受けますことを、ずっと前から覚悟致しておりましたのでございます"1974年発刊の本書は江戸川乱歩激賞の表題作含む書簡体傑作三作を収録した傑作短編集。

個人的には"猟奇的な世界観が大半の著者作の中で『清楚で流れるような美しさがただよっている』と表題作が紹介されているのを見て、未読だったので手にとりました。

さて、そんな本書は前述の肺病を病んだピアニスト、トシ子が自身の出生の秘密に思いをめぐらし、母親にうり二つの歌舞伎役者、中村半次郎に長い手紙を綴る表題作『押絵の奇蹟』著者名義でのデビュー作、恨みをこめて作られた鼓をめぐる数奇な運命が独白対の遺書として語られる『あやかしの鼓』そして収録作の中では最も探偵小説らしいシベリア出兵中の帝国陸軍の一等卒が「売国、背任、横領、誣告、拐帯、放火、殺人、婦女誘拐」等々の罪で追い詰められる顛末を描く『氷の涯』の三作品が収録されているのですが。

収録作に共通する登場人物の書簡を連ねることによって間接的にストーリーが展開していく『書簡体小説』がどれも効果的で、著者の他作品でも共通する『信頼できない語り手』として、表面的なテキスト(手紙)で書かれている結末とは別に【実際はどうなんだろう】と想像する余地があるのが楽しかった。

また表題作も確かに美しいのですが。個人的には女嫌いの文学青年であり、探偵趣味を持つ一兵卒、上村作次郎。そして酒を飲むと豹変する自称コルシカ人とジプシーのハーフ、ニーナが登場する『氷の涯』が一番、登場人物たちが個性的で、映像化してほしいなあ。とか思ったり。

著者作品に触れる最初の一冊として、また書簡体形式の作品好きにもオススメ。

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