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ある女

"私が母について書いているのを、人は知らない。でも、私は実は、母について書いているのではない。むしろ、彼女がまだ死なずにいるある時間、ある場所の中を、彼女とともに生きている気がする。"1988年発表、本書は仏女性初のノーベル賞受賞者"オートフィクション"作家による自伝的小説。

個人的には、著者作は未読だったので。2022年ノーベル賞の受賞を機に手に取りました。

さて、そんな本書は亡くなる三年前からアルツハイマー病により、ほとんど廃人になっていた母親の現実、そして死にに打たれた著者が、成長期の自分にとっての意思と活力のイメージとして本当に重要な存在だった母親の【様々な相貌と人生】を死の直後から書き始め、回想を通じて見出そうとしていくのですが。

作品のほとんどが自伝的なものであり、一方で『人生についての現実の物語と、作者が経験した出来事について探求する虚構の物語とが矛盾のままに交配する』“オートフィクション”の作家であることから、何冊か読み終えると【またイメージが変わるのかもしれませんが】著者の母親を振り返る語り口にすっかり引き込まれ、一気読みしてしまいました(翻訳も素晴らしい)

また本書では「ある女」母親の一生が描かれると同時に、母親に対して娘として抱く嫌悪感と親近感、疎ましさと愛着などの綯い交ぜになった複雑な思いも抑制された筆致で描かれているのですが。こちらも私自身が"人生の午後"世代として、老いた親と向き合っているからこそ共感しきりでした。

フランス人女性初のノーベル賞受賞者の読みやすい作品として、また老いた親と向き合っている方にオススメ。

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