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最後に、絵を語る。 奇想の美術史家の特別講義

"正統と奇、両者が相まって、などというと、ひたすら独自の表現を求める現代画家の反発を買いそうだ。とはいえ、美術史家や美術愛好家に必備なのは、単眼ではなく、みずからの視野を広げる複眼である"2024年発刊の本書は(奇想ではなく)正統派の日本絵画史について対話を重ねた一冊。良書。

個人的には伊藤若冲や曽我蕭白その他を紹介した『奇想の系譜』で知られる著者が『正統の系譜』を語っているのが興味深く、手にとりました。

さて、そんな本書は日本美術史の研究者として、前述の1970年刊行の流派史から外れた奇想の画家たちを再評価した『奇想の系譜』で、近世日本絵画史を大きく書き換えた著者が、いつのにか伊藤若冲や曽我蕭白その他に人気が集まりすぎて、それまで巨匠視されてきた『正統派』狩野元信、探幽、円山応挙らの影が本末転倒的に薄くなってしまったのでは?と本書では相対化を目的に『やまと絵』『狩野派』『応挙と芦雪』『わたしの好きな絵』と全4章にかけて、貴重な写真と共に紹介。巻末では教え子の山下裕二と対談を行なっているのですが。

たしかに、主宰するメタバース芸大RESTの日本美術史講義でも『何となくの判官贔屓』というか。体制側ではない庶民派として『奇想の画家』たちの方を思い入れたっぷりにしゃべっていた私にとって、本書の内容はリバランスを図る意味で、非常に勉強になりました。

また、個人的には円山応挙はそもそも好きなのですが。平面ではなく実物を『立体として眺めると価値がわかる』的な解説は興味深く、本書を読み終えて、さっそく実物を鑑賞しに行きたくなりました。

著者ファンはもちろん。『奇想の系譜』に対するリバランスとして、美術鑑賞好きな方にオススメ。

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