天衣無縫
"みんなは私が鼻の上に汗をためて、息を弾ませて、小鳥みたいにちょんちょんとして、つまりいそいそとして、見合いに出掛けたといって嗤ったけれど、そんなことはない。"2016年発刊の本書は表題作に夫婦善哉等、無頼派の著者の代表的作品を収録した短編傑作選。
個人的には随分前に『夫婦善哉』こそ読んではいたものの、著者作品はあまり読んでいなかったので手にとりました。
さて、そんな本書は昭和初期に太宰治、坂口安吾らと共に無頼派の1人として、また『オダサク』の愛称でも親しまれた著者による、当時の大阪を舞台にした世俗感溢れる短編が『夫婦善哉』から始まり9作収録されているわけですが。
何気に文スト的異能力ではない(笑)表題作『天衣無縫』は初めて触れましたが。冴えない男と見合い結婚した女性の一人語りが続く本作品。お人よしだけど【頼りない男性、それを支えるしっかりものの女性】といった設定は大阪の街に合うな。と、しみじみ感じたり、船場の女性たちを描く『船場の娘』『大阪の女』のロマンチックな内容に大阪弁(船場言葉)の女性たちはやはり魅力的。と、暫しの昭和レトロな大阪時代にタイムスリップさせていただきました。
また私的な話ですが。各作品の登場人物の行動、生活範囲が大阪、京都、和歌山とほとんど自分と重なるので。例えば『道頓堀五座』『二つ井戸』といった【当時あったスポットやお店が後景的に沢山出てくる】のも楽しい気分にさせてくれました。
大阪ミナミ観光のお供に。また昭和の大阪を舞台にした短編集を探す方にもオススメ。