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名探偵のままでいて

"そのときー唐突に、祖父がせがんだ。『楓。煙草を一本くれないか』七五調の語呂の良さもあってか、その言葉はどこか呪文のような響きを伴っていた。"2022年発刊の本書は第21回このミス大賞作。認知症を患う祖父が安楽椅子探偵をつとめる"日常系"本格ミステリ連作。

個人的に唐突にミステリを読みたくなったので、タイトルも印象的な本書を手にとりました。

さて、そんな本書は大学在学中から放送作家として活躍してきた著者のデビュー作で。およそ3つに大別される(らしい)認知症のうち、全体の約10%を占める"はっきりとした幻覚が見える"『レビー小体型認知症』を患う祖父が証拠や目撃者を探しに行かず【推理だけで事件を解決する】"安楽椅子探偵"役として、孫娘の楓が話して聞かせる"日常の謎"を次々に解き明かしていくのですが。

"日常系""安楽椅子探偵"といった設定こそ他作品でもよく見かけますが。【『認知症を患う祖父』が探偵役をつとめる】設定は私的には珍しく。レビー小体型認知症というはじめて知った名前と共に印象に残りました。

また祖父、そして孫娘の楓の他に、本書には楓に想いを寄せる爽やかな同僚男性教師の岩田、そして岩田の後輩。少し屈折した劇団員の四季といった人物たちが登場しているのですが。それぞれに魅力的で。【テンポの良い会話の空気感、安定感】も秀逸でした。

日常系ミステリ、古典ミステリ好きな方にオススメ。

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