見出し画像

暗夜行路

"直子は、『助かるにしろ、助からぬにしろ、兎に角、自分はこの人を離れず、何所までもこの人に随いて行くのだ』というような事を切に思いつづけた"1937年完成の本書は著者唯一の長編、完成までに26年の時を要した心境小説。

個人的には主宰する読書会の課題図書として手にとりました。

さて、そんな本書は夏目漱石から東京朝日新聞に小説を連載するよう依頼されたことから執筆するも難航し、連載辞退となった作品『時任謙作』を改題、紆余曲折を経て26年目に完成させたもので、前編は6歳の時に祖父に引き取られ、小説家となった謙作が幼馴染の愛子や年上のお栄に求婚するもうまくいかず、その理由が【出生の秘密にあった】と知り悩み苦しむ姿が。後編は京都に移った謙作が、出生の秘密を打ち明けても受け入れてくれた直子と結婚し、穏やかな日々を過ごすも今度は留守中に【直子が従兄と過ちを犯した】ことで再び苦悩を背負ってしまうも、強い意志力で幸福をとらえようとする様子が描かれているのですが。

著者については『小僧の神様』にかけて、その無駄を省いた写実的な文体が高い評価を得て【小説の神様】とも呼ばれていることは知っていましたが、今回の唯一の長編でも、その『文体に関しては風景描写も素晴らしく、存分に楽しむことができた』ものの前編の内容に関してはやや冗長な印象で読みづらかった。

ただ出生の秘密が明らかになってからの葛藤や京都での直子との穏やかな結婚生活からの更なる葛藤を抱えることになる後半はかなり引き込まれる展開で、ラストこそあっさりしていますがページをめくらずにはいられませんでした。

著者の代表作として、また芥川龍之介他に影響を与えた文体の名手の作品としてもオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?