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歩山録

"山田はこの山行の記録を紀行文に起こし、どこかの媒体へ持ち込もうと考えていた。『意味』で雁字搦めの都市から逃亡し、『無意味』の荒野を歩いて『実存的幸福』を探すのだ"2023年発刊の本書は自意識強めの完璧な登山からイレギュラーへ。スーパーサイケデリックマウンテンノベル。

個人的には書店員のオススメ記事を見て手にしてみました。

さて、そんな本書は支持されたドキュメンタリー番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」の生みの親である著者による一冊で。法学部出身、製薬会社勤務6年目、何より理屈を愛する男である山田がYouTubeやネットで得た知識で、周囲を冷笑しつつ奥多摩から埼玉、長野の県境を歩いて山梨の北杜市へと登山していくうちに、博士風の奇怪な男と出会い、いつしか異常事態、混沌の中に巻き込まれていくわけですが。

個人的にもキャンプブームの2020年代。自身も挑戦こそしてないものの登山に興味があり『ネットでリサーチしている』こともあって、山田という登場人物に感情を寄せることができました。

一方で本書は60ページあたりから熊と共に登場する奇妙な言葉遣いの"博士"による『当初の目的を忘れたとは言わせませんよ』から山田の物語は主体から世界に"見られている"不思議な世界に突入していくわけですが。何とも不思議な内的没入感がありました。

登山、キャンプ好きへ。また不思議な物語を探す人にもオススメ。

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