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イスラーム文化 その根底にあるもの

"要するにイスラーム共同体というものは(中略)イスラーム教徒がいちばん上に立ち、その下に複数のイスラーム以外の宗教共同体を含みながら、一つの統一体として機能する大きな『啓典の民』の多層的構造体なのであります"1981年発表の本書はイスラーム文化の根底に迫った講演録。名著。

個人的には前からイスラーム文化に関して深層的な部分を知りたかった事もあり本書を手にとりました。

さて、そんな本書は言語学者として30以上の言語を流暢に操り、また日本で最初の『コーラン』の原典訳を刊行した事でも知られる著者が、1981年に行った三回の講演。主題を『イスラーム文化の根底にあるもの』そして『宗教的根底』『法と倫理』『内面への道』を各テーマにした講演を録音したものを活字化したもので。正しくイスラームおよびイスラーム文化を理解するためには『表層的な概論』ではなく、先ずイスラーム文化を真にイスラーム的たらしめている『精神の把握』が大切である。と、『コーラン』への深い理解を背景に、成立におけるキリスト教との関係性、仏教との違い。あるいは発展期、ムハンマド亡き後の変質について明快に解説してくれているわけですが。

主に美術史を学ぶ過程で日本の仏教、そしてキリスト教については既にある程度の理解がありましたが、それらと比較してのイスラーム側からの否定、あるいは違い(例えば、三位一体や輪廻転生の否定、神と人間の世界が二分されない)は非常に刺激的で理解が深まります。

また家族主義的な砂漠的民ではなく、当時の国際的商人であるムハンマドによる現世実利的な『商人道義を反映した』イスラーム文化が広がっていく過程で、やはりムハンマドが神格化、権威化されたり『最後の神の言葉』であるコーラン解釈で対立を生んだ流れもよくわかりました。

イスラーム文化の精神性の根底理解、コーランについて知りたい全ての方にオススメ。

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