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レクイエム

"ただ、声に出してそう言いたかった。みんな、さよなら。そして、おやすみ。もう一度、そう繰り返した。そして、わたしは頭をうしろに反らせ、月を見上げた"1991年発刊の本書はリスボンを舞台に繰り広げられる正者と死者の対話、交差する世界。良書。

個人的に『インド夜想曲』が面白かったので、本書も手に取りました。

さて、そんな本書はイタリアの作家にして、学生時代にリスボンを訪れた際に同国の国民的詩人、詩人フェルナンド・ペソアの作品に触れたことがきっかけで、ポルトガルに愛着を持ち、現在は学者としてもシエナ大学でポルトガル語および文学を教えている著者がポルトガル語で書いた一冊で。『インド夜想曲』と同じく、主人公の『わたし』が生死の別もさだかではない行方不明の友を尋ね、あるときはなりゆきまかせ、あるときには衝動にかられるままにリスボンの町を夏の日の正午から真夜中すぎまで移動しながら、様々な生者と死者との再会、そして表題の『レクイエム』通りに別れを告げていく姿が幻想的に描かれているのですが。

いやあ!面白い!カフカ的不条理さというか、特にエンタメ的な盛り上がりがなくても、こうした対話の場面が繰り返されるだけでも、ここまで引き込まれるのか!と心地よくポルトガルの地に没入させていただきました。

また、美術史好きとしては。作中の模写画家の披露するルネサンス期の奇想の画家、ヒエロニムス・ボスの作品が病院の霊的治療の用途を持っていたというエピソードにええ!と驚いたり。

素晴らしい翻訳の幻想小説として、またポルトガルはリスボンの地、料理に思いを馳せたい方にもオススメ。

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