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東方綺譚
"源氏の君のかおばせは、すでに死者だけのもつあの精澄さを示しつつあった。あらゆる苦悩は終わりを告げ、彼の面ざしからは飽満と苦々しさの痕跡がことごとく消え去って、未だ自分が十八歳であると彼自身納得しているように見えた。"1938年初版の本書は東の国々が舞台、9つの珠玉の短編集。
個人的には女性初のアカデミー・フランセーズ会員として、また三島由紀夫を評価していたことでも知られる著者作は未読だったので手にとりました。
さて、そんな本書は1951年、ローマ皇帝の個人的な回想の形をとった歴史小説『ハドリアヌス帝の回想』を発表、フェミナ・ヴァカレスコ賞を受賞して国際的名声を得た著者が、父を若くして失ってから、1935年からのイスタンブール、イタリア、中央ヨーロッパなどに遊学時の見聞を活かして発表したギリシャ、バルカン諸国、インド、中国、日本などを題材にした幻想的な短編集なのですが。
やはり、日本人としては紫式部が微妙な配慮からわざと空白にしておいた『雲隠』の巻から、盲いてゆく源氏の最期を皮肉な手法で描いた『源氏の君の最後の恋』が何とも不思議なエキゾチック感があって興味をそそります。
また、漢の皇帝と天才画家の対決『老絵師の行方』凡庸な老絵師を描く『コルネリウス・ベルクの悲しみ』も表現者として鮮やかな対照を感じさせ、印象に残りました。
西洋から東を眺めたエキゾチック感溢れる作品、幻想的な短編集好きな方にオススメ。
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