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街とその不確かな壁

"『街は高い壁にまわりを囲まれているの』ときみは語り出す。沈黙の奥から言葉を見つけだしてくる。身ひとつで深海に潜って真珠を探る人のように"2023年発刊の本書は著書6年ぶりの長編、発表から40年が経過して描き直された物語。

個人的には著書の熱心なファンというわけではないのですが、何となく気になって手にとりました。

さて、そんな本書は1980年に文芸誌で発表されるも、著書自身が内容的にどうしても納得がいかずに一度も出版されていなかった"未完成"の同名作品を、40年が経過して71歳になった著者が新しい形に書き直し、第二部、第三部を加えて長編として完成させたもので。

あるきっかけで、きみと知り合った"ぼく"が、彼女の夢に出てくる【壁に囲まれた街】の話を聞いているうちに、実際にその街を訪れることになる第一部、現実の世界に戻って中年になった"ぼく"が会社を辞めて地方の図書館長になって新たな出会いをする第二部、そして再び舞台を街に戻し、第一部の『先の物語』が始まる第三部。となっているのですが。

率直にいって、若い時に著者作を読んだ時は単純明快さもなく、不思議な登場人物が意味深な言葉を語るのに辟易したものですが。年を重ねて、むしろ不条理さ、複雑な社会に折り合いをつけれるようになった今。本書の特に前半は好きなカフカの『城』や安部公房の『砂の女』に似た感じがあって心地良かった。

一方で、後半からラストにかけて『イエロー・サブマリンの少年』がバディ的存在になる展開は、あくまで個人的には【ちょっと急展開な気がしましたが】おそらくそれは、私が【壁に囲まれた街】のことをもっと知りたい、もっと滞在したいと惹かれる気持ちからかもしれません。

著者ファンはもちろん、幻想小説好きな方にオススメ。

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