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残月記

"あなたらが見あげるまるいうすい銀箔な骨まで凍えきった月の死骸だ骨がらだ われらの月は生きている息づいている脈動している 夜の心臓のようにわれらの心臓の母のように"2021年発刊の本書は月をテーマに三作の異世界が収録された良作。

個人的にはディストピア小説好きということもあって本書を手にとりました。

さて、そんな本書は著者9年ぶりの著作にして2022年本屋大賞第7位、第43回吉川英治文学新人賞、第43回日本SF大賞受賞、23年『SFが読みたい!』国内篇第3位と評価も高い一冊で。

研究者として不遇な半生を送ってきた男がようやく社会的安定や知名度、そして家族というささやかな幸福を得るも【怪しげな満月の日に全て奪われてしまう】どこか純文学的な短編『そして月がふりかえる』月の風景が表面に浮かぶ石を枕の下に入れて眠ると【異世界としての月に連れていかれてしまう】女性を描いた短編『月景石』そして表題作の独裁者に支配された近未来日本、人々を震撼させている感染症・月昂に冒されつつも【剣闘士として戦い続ける】青年を描いた中編『残月記』の三作が収録されているのですが。

エンタメ度の高さでは中でもやはり表題作の『残月記』が面白く。ディストピアSFとして映像化してほしい。と脳裏にラッセルクロウ主演の『グラディエーター』日本版?的イメージを浮かべながら楽しませていただきました。

また『そして月がふりかえる』も、あまり救いのない話ですが。それまで堅実に生きてきても、魔が刺したとしか思えない【一瞬で社会から弾かれてしまう】現代日本社会にしがみついて生きる1人として、何とも隠喩的な作品だな。と、じわじわと。

幻想的な短編好き、現代日本的ディストピアSF好きな方にオススメ。

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