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感情教育

"一瞬、まぼろしがたち現れたのかと思った。その女性はベンチの中央にひとり腰をおろしていた。というより、その人の投げかける視線がまぶしくて、ほかの人の姿が目に入らなかったのだ"1869年発刊の本書は青年のロマン主義的理想とその挫折を描いた自伝的恋愛小説。

個人的には主宰する読書会の課題図書として『ボヴァリー夫人』に次いで手に取りました。

さて、そんな本書は『ボヴァリー夫人』で【卑近な題材を精緻に客観描写する】手法でゾラやモーパッサンさといった写実主義、自然主義に影響を与え、本書他では【徹底して作者の痕跡を消し去り、作品をそれ自体で成り立たせようとして】カフカ、プルーストによって再評価、現代文学の先駆者にも影響を与えたことで知られる著者による二月革命前後の混乱するパリを舞台に、夢見がちに生きる青年と彼をとりまく4人の女性、アルヌー夫人(マリ・アルヌー) ロザネット、ダンブルーズ夫人、ルイーズ、そして親友デローリエをはじめとする仲間たちを三部構成で描いた恋愛、群像劇的な長編歴史小説なのですが。

まず、23歳の時に同名で書き上げだ小説を40代に達した著者がリブートさせたという本書に村上春樹の『街とその不確かな壁』を思い浮かべつつ、とはいえ、西洋古典あるある話ですが【情報量と比例して展開が遅く】第一部にはストレスを感じてしまいましたが。次第に引き込まれて二部、三部と読み終えた充実感はとても良いものでした。

特に、最初に引用している第一部冒頭の瑞々しさを感じる【アルヌー夫人との運命的な出会い】からの時間があってこその、第三部6章『フレデリックは旅にでた』から始まり"あのころがいちばんよかった"でおわる、人生的な余韻を残す【ラスト約20ページのくだり】秀逸。

『ボヴァリー夫人』と並ぶ著者の代表作として、またパリ好き、群像劇的な小説好きにもオススメ。

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