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青春の逆説

"『これが青春なんだ。汚いところに美しいものを見つけるのが本当の青春なんだ』"1941年発刊、発禁処分も受けた本書は自意識過剰の美青年、毛利豹一の京都での学生生活と中退後の大阪での記者生活を痛快無比に描いた長編青春小説。

個人的には著者作に関しては『夫婦善哉』しか読んでいなかったこともあり、手にとってみました。

さて、そんな本書は戦後、太宰治、坂口安吾、石川淳らと共に【無頼派、新戯作派】と呼ばれた著者29歳の時に短編小説『雨』を改作して発表した作品で。著者自身の学生時代を彷彿とさせる自伝的部分があるも、それよりも傾倒していたスタンダールの『赤と黒』の主人公【ジュリアン・ソレルの影響を強く感じる】自尊心の高い美貌の青年、毛利豹一。かれがせっかく三高(現在の京大)に入学したり、周りが憧れる女性たちと付き合ったりするも【自尊心の高さや女性に対する潔癖さから空回りしていく】姿が、大正時代の京都や大阪の世俗を描写しながら急テンポで描かれているのですが。

自伝的"脚色"としては同時代の無頼派、太宰治作品を。そして【すぐにキレたり恋愛に初心な部分】は夏目漱石の"坊ちゃん"を思い浮かべつつも、しかし、やはり違う。主人公の【豹一を取り巻く癖の強い登場人物】金貸しに異様に執着する父親や、先輩のええかげんな芸能記者、全てに"私はどないでもよろしおま"な母のお君などなど。時代をこえて【大阪の雑然さが魅力的に伝わってきて】面白かった。

一方で、人物たちそれぞれは魅力的ですが。物語としては、良く言えば急テンポ、悪く言えば【豹一キレる→周りの登場人物、恋愛相手が変わる】の繰り返しで、ちょっと【荒削りというか(リアリズム志向?)丁寧さに欠ける印象】でした。(私的には学生時代は京都、社会人になってからは大阪に縁ある身としては、それでも充分に楽しめましたが)

著者の代表作の一つとして、また大正自体の京都、大阪の様子に興味ある方。また『赤と黒』の大阪受容、カバー作品としてもオススメ。

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