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歯とスパイ

"『わたしは偶然など信じない。この三本の歯は』と、SD6、IS6、ID4を指さしながら彼はいった。『わたしにいわせれば、三つの一神教を象徴しているのです』"1997年発表。本書は32本の歯を通してアクセスしていく東欧の小国スパイの人生の軌跡。寓意と奇想あふれる魅力的な一冊。

個人的には多分、読書会で参加者にすすめられて手にとりました。

さて、そんな本書は『編集者注』と、いきなり奇妙な記号と数字が割り振られた歯列図が提示され、読者に対して『そのまま読み進めるか』『歯種ごとに読んでもよい』といった奇妙な選択肢が与えられた後で【一応はスパイ物語として】親友のスパイ仲間であるマエストロGと暗号でやりとりしたり、世界各国を訪れたりするのですが。本書は【あくまで主役は歯であり】スパイとしての工作活動より『歯にまつわるあらゆる要素』を主人公は思索の対象とし、各地の(これまた奇妙な)歯科医と対峙しながらひたすら披露し続けていくのですが。

まあ、冒頭から奇妙な本であることはうすうす想像出来ていたとはいえ、ここまで【はじめに『歯』ありき】とは思っておらず、まさか虫歯治療がカントやショーペンハウアー、ユングや孔子が援用される大袈裟な談義になるとは!と驚きながら楽しませていただきました。

また、確かに主人公のスパイとしての派手な活躍は描かれない一方で、かっての007、ジェームズボンドよろしく活動(と虫歯治療)の合間に妻ラケルと家族を何度も裏切りながら【世界各地の様々な女性と関係を結んでいく】エピソードは豊富に披露されるのですが。それでも最後は?妻との関係含めて『何だか良い話的にまとまっている』のにもニヤリとしてしまった。

歯科関係の方はもちろん?奇妙な本を探している方にオススメ。虫歯治療中の方にはオススメしません(笑)

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